6.トラッパーの戦い方
先日、ゴブリン討伐に成功した俺たちの手元には贅沢をしなければ、一週間は過ごせるほどの大金が入った。
というわけで、久々に二人とも一日休みをとったのだが。
「……それで、アリビアのことどうするんですか?」
「どうって?」
ヒーコは大きく息を吐いて、楽観的な俺に攻撃的な視線を向ける。
「いや、別にいいんです。
アリビアが私たちのパーティに入ろうが入らなかろうが。どうせ私たち二人も戦力外なので……」
「そうっすね……」
俺たちのパーティは未だに討伐数1……それもあのゴブリンを運良く倒せたに過ぎない。
正直言って、個人としてもパーティとしても冒険者たちの中では最低クラスと言って良いだろう。
「ただ、これからどんどんギルドで依頼を受けるたびに運良く勝つ……それどころか負けたとして逃げ続けられるわけがないんですよ!
次行ったら全滅の可能性が高いです!」
「……もっと、パーティメンバー連れていったら良いんじゃないの?」
ヒーコは何もわかっていないと首を横に振る。
「残念ながら……そうはいかないんです。
颯太がいた世界がどうだったかは知りませんが、私たちの世界ではパーティは4人までなんです」
「……それ以上連れてったらダメなの?」
「首のところが急激に熱くなって最終的に死にます」
……急にめっちゃ怖い設定でてきた。
あの女神、デスゲームの映画とか片手間に見ながらこの世界作っただろ。
よくよく考えたら、最近あの人姿現さないけどめっちゃむかついてきた。
「……まあ、これが4人目に協力な助っ人連れて来れるなら話は別ですが、アリビアの時点でそういう話でしたよね?
颯太の性格的に、次こそ安定して強い人が入ってくるとは、全く思えません」
「……はい、その通りです」
足を組み替えて、俺を睨み直すヒーコ。
怖くてあえて考えないようにしていたが、はっきり言おう。彼女はマジギレしている。
この前の牛乳買い忘れとは比にならないレベルだ。
「どうすれば良いと思います?」
「……アリビアに別パーティに行ってもらうとか」
「じゃあ、颯太から言ってくださいね。
私は友達なので、気まずくなりたくないですから」
「すいません、別の案考えます」
……4人目、本気で強い仲間をスカウトする。
いや、前ギルドで声をかけた時もアリビアがようやく声をかけてくれたくらいだしな……。
相変わらずヒーコは俺のことをじっと見てきていて何だか焦った気持ちになった俺はついに……
「俺が……頑張って強くなります」
「……私も、頑張りますけど。
ヒーラーなので、どうしても敵を倒すことは難しいです。颯太が頼りなんです、お願いしますよ」
とりあえず街に出て、考えてみる。
……正直、少し感じていたことではあった。
俺は恐らく、あのパーティで一番替えがきく。
ヒーラーのヒーコは勿論非常に優秀だし、アリビアはその足の速さで周辺の様子を見たり……何にせよできることはありそうなものだ。
その点、俺がパーティに必要だったのは唯一ダメージを取れる職業だからである。
そのダメージの出し方も罠を設置して誘導するというあまりにも遠回りな方法だ。
もっと簡単にダメージをだせる誰かがパーティ入りした瞬間、裏で守られるだけの邪魔なイベントNPCみたいな立ち位置になってしまうのだ。
床や壁に罠を設置する……うーん、どうしたらもうちょっと強い戦い方ができるだろうか?
「おーい、颯太ー!
こんなところで何してるのー!」
あっちから手を振りながら声をかけてくれるパルコ。
……とりあえず、相談してみるか?
「……?
ダメージとか出せるようになりたいってこと?」
「そうそう、今の方法だと回りくどくて使いづらいんだよなぁ……」
「じゃあ、殴っちゃえば?」
「…………俺、パルコより攻撃力低い」
「じゃあ、攻撃力に振っちゃえば良いじゃん?」
「それはそれでなぁ、あの罠攻撃力依存じゃないんだよね……」
こうして、話していると相変わらず能力の弱さが際立つなぁ……。
そういえば、ステータスは何に振ろう。
防御、魔法防御は無しらしい……体力をあげればどっちの攻撃にも耐えられるようになるからだ。
だとしたら攻撃力、素早さ……それこそ体力?
うーん……。
「じゃあ、殴っちゃえば?」
殴る?……攻撃力ないのに?
でも、罠自体の火力は高いんだよなぁ……ゴブリンを一撃で倒したくらいだし。
上手く攻撃に罠を組み込む方法……あ。
「殴れば良いんだ……罠で」
俺はアリビアに握手を求めて、その腕を思いっきり振る。
「そうだ、そうだよ!
俺良い方法思いついた、これならいける!」
「解決したの?……良かったね〜!
明日とかにまた、見せてくれるんでしょ?」
自分のことのように嬉しそうにするアリビア。
いけるか分かんないけど、それでも。
とにかく、明日はまた冒険に出かけることにしよう。
―
「何か策があるって言ってましたけど……そういえばステータス振ったんですか?」
「ああ、振ったよ……見てみる?」
「はい…………え?
全部防御に振っちゃってるじゃないですか!
せめて、体力に振った方が……」
「いや、これで良いんだよ」
とりあえず準備……俺は罠を設置する、自分の拳の先に。両手につけて二発分だ。
「おー、ボクサーみたいで格好いい!」
「まあ、珍妙な見た目ではありますね……」
うん、酷い言われようではあるが俺はそのままゴブリンの目の前に姿を現す。
「グギャギャ笑笑」
ゴブリンにも笑われた、許さん。
「よし、見せてやる。
これが俺の新しいバトルスタイルだ!」
ゴブリンを殴った瞬間、罠が発動し爆発を起こした。
これは前に検証済みだが、ゴブリンはひとたまりもなく一撃でKO……俺は防御を上げたから死にはしない。
「スーパーヒール!……凄いじゃないですか!
まさか一日でこんなスタイルを見出してしまうなんて」
「私のアイデアのお陰だもんね!……颯太?」
俺は自分の拳や身体を一通り見た後、ようやく声を出す。
「…………いだあああああああああい!」
あまりの強烈な痛みに涙を流す俺に、やれやれと首を振るヒーコに思わず笑ってしまうアリビア。
これから戦う度に、この激痛に耐えていかないといけないのか、そんな悲壮感もそこにはあるが。
とりあえずまあ、後のことを考えないならようやく仲間に貢献できそうな戦い方を見つけたことを喜ぶべきか。
「……あの、自分の腰でもう片方の罠押しちゃってますよ?」
ドガーン……不注意で爆発を起こしその場に倒れる俺。
後1秒、回復魔法が遅れていたら俺の異世界ライフは終わっていたかもしれない。
爆発オチなんて……最低……。