5.超速の冒険者
昨日、俺はダクスさんという人気な冒険者にギルドで誰か強い人と一緒に行動したらどうかと言われた。
そんなわけで早々に朝の仕事を終えて俺たちはギルドに行ってみることにする。
「あの、あえて一番弱い討伐対象を上げるとしたら誰ですかね?」
とりあえず、もう自分の勘に頼るのは辞める。
ギルドの職員に、おすすめモンスターを聞いてみることにした。
「そうですね……ゴブリンなんていかがでしょう?」
「ゴブリンか、いいかもしれない!」
「ですね、流石にスライムよりは何とか……」
ゴブリン……スライムと並ぶほどRPGにおける雑魚キャラのイメージは強い。
スライムに比べると、意外性のある生態があるとは思えないし、強い人と一緒に行きさえすればどうにもなりそうな予感がした。
「……じゃあ、それで!」
というわけで、俺たちはギルドの人たちから生息場所や大まかな攻撃方法なども詳しく聞いた後、ギルドに入ってくる人たちに次々声をかけてみる。
基本的に、ギルドに来る人たちは既にパーティを組んでいるか、ちゃんと用事があるかの人が多いためこんな朝っぱらからパーティに加わってくれる人は意外にいない。
「……あの、私なら入ってもいいよ!」
そんな中でも、やっぱり優しい冒険者さんはいる。
困り果てた様子の俺たちを見かねた一人の冒険者が物凄い勢いで俺たちに迫ってくる。
「え、マジで!
……疑ってるようで申し訳ないんだけど、レベルと職業を確認しても良い?」
「全然オーケー!
職業は騎士、レベルは28……ドヤッ!」
本で読んだことがある、騎士は攻防共にバランスのとれた、どんなパーティでも活躍できる安定感のある中々に強力な職業だと。
それでいてレベルも高い……!
「是非、俺たちのこと手伝ってください!」
「勿論!二人の名前は?……颯太にヒーコ、いい名前!
私のことはアリビアって呼んでね!」
というわけで、アリビアというめちゃくちゃ協力な助っ人を加えた俺たちはゴブリン討伐へと向かう。
あまりにも俊敏な身のこなしは、まさしく強者という印象を覚えたし、俺たちですらついていくのがやっとだ。
そんなアリビアの後を追いかけるうちに、ゴブリンの生息地にやってくる。
「……えーと、ゴブリンは単独での行動が多いがその分戦闘能力も知能もそれなりにある。
また、攻撃にはスタン属性があり動きを拘束されながらタコ殴りにあう危険性がある。
そのため、気づかれる前に奇襲して一撃で倒すことがポイントとなる」
俺は、ギルド職員のアドバイスメモをそのまま読む。
さっきの俊敏さ、まさしく奇襲をするならアリビアが一番適しているだろう。
もしもやり損ねた場合、逃げ先に俺のトラップを置いておいて妨害……ダメージを受けた場合は即回復して撤退。
よし、ある程度隙のない作戦だと思う。
「それじゃアリビア……お願いね」
「任せなさいな……」
ゴブリンを発見した俺たちは近くの草むらに身を潜める。
ドクン……ドクン……アリビアがいる心強さはあるもののやっぱりとてつもない緊張感がある。
これが、初めてのモンスター討伐になるのだ。
「もらったあああああああ!」
ペチッ……………………ペチッ?
アリビアの気迫ある声が聞こえた後に、あまりにも可愛い打撃音が響き渡ったような。
急いで、二人がどうなったか眺めてみるとゴブリンの肩に確かに剣が触れている。
だがしかし、それだけだ。
ゴブリンは、戸惑ったように剣を奪ってその辺に投げ捨てる。
「ダメだった……てへ?」
ゴンッ……重い音と共に倒れるアリビア。
俺たちはその瞬間、慌てふためいたように動き出す。
「ヒ、ヒール!
何やってるんですか、逃げますよ!」
「あはは……死にかけた……って、なんか足元に……」
「それ、俺のトラップ!」
強烈な爆発が起こった。
俺たちパーティもゴブリンも、直接爆破を受ける。
「スーパーヒール!スーパーヒール!」
……結局、ゴブリンはトラップの爆発に巻き込まれてやられたようだ。
俺は、疑いの目をアリビアに向ける。
それを知らんぷりと、見ないようにするアリビア。
「あの、ステータス……見せて」
「ステータス……ああ、ステータスね……?」
アリビアは、既に抵抗する気力もないようでステータス画面を表示する。
……あれ、本当に彼女の言うとおり職業は騎士だしレベルは28。
って、んん?攻撃力46……素早さ、542?
「なんか、素早さだけステータス異常なんだけど……」
「……はぁ、もう話すしかないよねぇ。
そう、ステータス全部素早さに振ったの……」
「え、何で?
だって、素早さだけ振っても攻撃力が足らないんじゃどうしようもないじゃん。何で、こんな極降り……」
「いや、モテるかなって思って……」
いや、足速くてモテるのは小学生までだろ……。
どうやら、俺たちはまたとんでもない逸材を連れてきてしまっていたらしい。
足速いと、戦闘に役立つのかな?
…………少なくとも、攻撃力とバランスよく上げている人の方が強いだろう。
「ま、まあ……今回は勝てたから良いじゃん!
それに、私たち相性もいいと思うんだよね!
ほら、颯太がトラップを設置して私がそこに向かって走っていく。
それでモンスターも私もダメージ食らうけど私だけヒーコに回復してもらう……ほら、悪くないでしょ?」
なんちゅう歪な連携……隣でヒーコは完全に苦笑いだ。
ヒーコの1ミスで尊い命が失われるかもしれないのだ、そりゃこんな微妙な反応にもなる。
「まあ……勝ったには勝ったので……。
とりあえず、今日は帰りましょうか」
一応……結果的には初の勝利なのだ。
これからパーティを組むとしたら先行き不安ではあるものの、もうこれっきりにしてもいいだろう。
まあ、アリビアは……たまに遊んであげたりとかしよう。
「アリビア……!?」
「あー、お兄ちゃん!」
と、街に戻ってすぐに声をかけられるアリビア。
どうやらお兄ちゃんということらしい、挨拶しようと顔を見た瞬間……
「え、ダクスさん……」
「颯太くん、俺の妹がもしかして迷惑かけたりした?」
「…………い、いえ」
ヒーコがちゃんと本当のことを言え、と痛いほど鋭い視線を送ってくる。
仕方ないだろ……俺にとってダクスさんは憧れで絶対嫌われたくないし。
「そうなのか!……いや、良かった……。
妹はパーティ見つけるのとか苦労してたみたいだし」
「へーそうなんですね…………それなら良かった。
丁度、これから一緒のパーティでやっていかないかと打診するところだったんですよ」
「!?……ちょっと、颯太。
そんな話さっきまで……もがもが!」
そんな俺たちの様子を見たアリビアは目を輝かせる。
「本当に!?
私、二人と一緒にやるなら張り切っちゃうよ!!」
そんなわけで、アリビアが俺たちのパーティに入った。
まあいいだろ……ほら、足速いし……足も速いし。
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