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3.初めてのクエスト

「そうたー……起きてくださ〜い!」


 目を覚ますと、やけに眩しい朝日が出迎えてくれる。

 あまりにも触り心地が良い、布団の生地に柔らかすぎるベッド……本当は俺だけのこの帝国から出たくはない。

 けど、彼女……ヒーコがもっと朝から起きて色々と支度を済ませてくれたのだ。

 何とか欲望に打ち勝ち、布団から飛び出す。


 全てが大きいその家、一階に降りるとようやくヒーコの姿を確認できる。

 昨日まで、修道服を身にまといシスターの風格を醸し出していた彼女だったが、クローゼットに入っていた服に着替えたのだろう。

 こうして普段着になると、何だかプライベートを垣間見ているような感覚になってドキドキする。


「それじゃ、ご飯にしましょっか!」

「……そうだね」


 俺がこれまで食べてきた手作り料理は、八割がお母さんと食堂のおばちゃんである。

 少なくとも、こんな綺麗な女性の手作り料理なんて食べたことがなくてこれまたやっぱりドキド……ん?


「あの……今日のメニューって」

「どうしたんですか?

 美味しいですよ、雑草の盛り合わせ」


 うん、料理名は確かに間違っていないのだろう。

 細いものや楕円のもの、ギザギザのものまで……。

 多種多様、様々な雑草がお皿に盛り付けられている。


「あの……これって、食べれるやつ?」

「何ですか?もしかして嫌いでした?」

「いや……嫌いとかじゃなくて……」

「いただきましょうか!」


 ……ええい、ままよ。


「いただき……ます!」


 俺はそんな覚悟に満ち溢れた声と共に、その料理?を口の中にぶち込む。

 ……に、苦いよー……。


「ごちそうさまでした」

「…………ごちそう、さまでした……」


 完全に燃え尽きた。

 自分の髪がストレスで白くなっていないか不安になってしまうほどの激闘だった。

 せめて、マヨネーズでもあれば……。


「よし、お金稼ごう……!」

「ですね……これじゃ栄養素が偏っちゃいます!」


 そういう問題じゃないんだけど……。

 相変わらず、かなり辛い生活を昨日まで送ってきたんだろうと理解して、胸が痛む。

 今日は何なら外食しよう……そのためにはやっぱりモンスター退治だ。


 というわけで、早速ギルドにやってきた。

 俺たち二人に倒せるモンスターはいるのだろうか。


「あ、これなんてどうですか?

 猫ちゃん探し、報酬も悪くないですよ!」

「いや……せめて一週間くらいの食事代になりそうな。

 うん、これなんて良いんじゃない?」


 俺が目をつけたのは、スライムの討伐。

 やっぱり、序盤モンスターの代表格と言えばこいつだろう。


「えー……本当に大丈夫なんですか?」

「でも、これ倒さなくちゃ食にありつけない。

 最悪、逃げれば大丈夫だし」

 

 ……スライムがいる場所は街から少し外れた場所にいる小さな洞窟。

 よし、これならなんとかなるかもしれない。

 俺は、入り口に罠を設置する。


「それが、トラッパーのスキルというやつですか?」

「うん、昨日ギルドの人から本を借りて勉強したんだ」


 とりあえず、俺は現在レベル1……ヒーコはレベル3。

 そんな俺たちに使えるスキルはそう多くない。

 そんな低レベルで使える、基礎中の基礎と言えるスキル程度ならばレアなトラッパーであろうとも本に記されているのだ。


「よし……設置完了」


 これがトラッパーのスキル。

 設置物1―爆破トラップだ。

 なんかダブルスラッシュとか、インフェルノとか……。

 俺のスキルは全体的にゲームオブジェクトの名前みたいであんまり風情がない。

 その分、どういう効果なのがわかりやすいのは利点だろうか。


「なるほど、確かにこうしてモンスターの住処の入り口にトラップを置いておけば、確実に倒せますね。

 ……あれ、これって私の出番あります?」

「ま、まあ……これからまだまだパーティ仲間も増えてくるからそのうちね」


 よくよく考えてみれば、事前に準備して完璧に倒し切る俺の職業と、回復支援を得意とするヒーコは相性が悪い。

 ヒーコの職業は正直、腐らせる方が難しいほどの有用なものだが、その例外が恐らく俺だ。


「じゃ、いくよ……あああああああああああああ!!」

「え、え……これ、何やってます?……ふふ」


 突然の奇行に半笑いのヒーコだが仕方ないのだ。

 俺たちにはこれ以外に、スライムを呼び寄せる手段がないのだから。


 だが、大声はやっぱり効果があったようだ。

 洞窟から姿を見せたスライムがトラップに引っかかって爆発が起こる。

 よし、スライムを討伐した証としてドロップしたアイテムを取ろうと、洞窟に近づいた瞬間……


「颯太!止まってください!」


 ……へ?

 気づいたときには、洞窟から何百という単位で現れたスライムに目をつけられていた。


「逃げますよ!!」

「う、うわあああああああああ!!」


 今度は正真正銘心から出てきた叫び声。

 スライムが俺にまとわりつく度に、どんどん俺の身体が溶けそうになる。


「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」


 苦節30分……俺たちはボロボロの状態で街まで戻ってきていた。

 ……回復のこと腐るとか言ってすいませんでした。

 多分、100回くらい死んでました。


「……ってか、何あれ!?

 スライムいすぎじゃない!?」

「だから大丈夫かどうか聞いたじゃないですか……。

 スライムは普通、数百体の群れで行動するんですよ」


 そういえば……俺は天界での言葉を思い出していた。


「女神エクセアが統治する世界はまさしく鬼畜難易度、攻略不可能とすら言われる世界なんです」


 こんな雑魚キャラですら、ここまで強いとは。

 スライムでこれなら、いずれ不死身とか一撃死とか更に理不尽な敵が出てくるんじゃないのか?


「さぁ、明日のために雑草で集めましょうか?」

「……はい」


 スライム退治に赴いていたはずの俺たちは、日が暮れる前に集めきろうと、雑草集めに勤しんでいる。

 ……明日も雑草……まあ……慣れるのかな。


「にゃ〜ん」


 ……ん?

 草の上で気持ちよさそうに寝ている猫。

 俺は、多分これまで見せたこともないような素早い動きでその猫を抱え込む。

 そのまま、ギルドへ向かった。


「おお、そうですこの猫ちゃんです!

 猫ちゃん探しのクエスト達成です!

 それじゃ、依頼達成料を出しておきますね?」


 とんでもないガッツポーズを見せた俺たちはそのまま食堂へと向かう。


「ハンバーグ定食で」

「私は、焼き魚定食でお願いします」


 無言で待ち続けていた俺たちの目の前に、皿が運ばれてくる。

 肉厚で美しい、ハンバーグを見た瞬間俺は一気にかぶりついた。


「「うんまっ!!」」


 一口食べた瞬間、俺とヒーコはバイトを始めることを心に誓ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます!!


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