2.俺の職業は……
「…………へ?」
響き渡る少女の驚いた声。
周りを見渡して、俺はそんな声が出ても仕方ないと察する。
ボロボロの教会、そして祈りのポーズをしたまま動かないシスターらしき格好をした少女。
どうやら俺の初期リスポーンは教会だったらしい。
「あ、あの……あなた……は?」
「あ、俺ですか?
俺は横山颯太、異世界から……あれ。
これって言っても大丈夫なのかな……?」
バン!……大きな音と同時に思いっきり開いた扉。
そこには、酒飲み女神エクセア様の姿がある。
「異世界云々の話はしても全然問題ないよ!」
「あ……今もうその疑問を余裕で超えるレベルの事象が起こっちゃったので興味なくなりました」
「へ……ああ、私がここにいる理由ね?」
この様子を見るに、当たり前みたいにこの世界に入り浸っているようだ。
相変わらず懲りない様子のエクセア様は、一升瓶の酒を喉に通しながら歩いてくる。
「いやぁ……私、天界だったら肩身狭くてさぁ……。
こうやって、基本的には自分の世界に逃げてきてんの」
エクセア……様?あれなんで俺この人のこと様つけて読んでるんだっけ?
もうこっちの世界に転移してきたことを後悔しつつある。
「……ちょ、ちょっと待ってください!
貴方が、エクセア様……?」
「うん、そうだよ〜」
「嘘……じゃないですよね……」
そういえばさっきから全く会話に参加してこなかったシスターが今はどんよりと暗い顔をして、ベンチに座っている。
……ああ、この教会で信仰しているのはエクセアだったのか。
それがこんな最悪のムーブで入ってきたんだ。
俺だったら、泣いてるよ普通に。
もうとっくに尊敬を失った俺は、どうせいけるだろうと普通にタメ口で話してみる。
「……ってか、エクセアって一応女神様なんでしょ?
それが普通に……こんなところにいたらまずいんじゃ」
「あーそれね。私ってだらしなさそうでしょ?
実際その通りなんだけど、そのせいで全然進行されなくなっちゃってさぁ。
気づいたら、この子一人だけになっちゃったんだ……」
なっちゃった……じゃねーよ。
そうか、信仰を失った女神の教会だからこんなにボロボロだし、シスター一人しかいないのか。
可哀想すぎてもはや気まずいな……どうしよ。
「これから、この世界のあれこれ教えてくれるんでしょ?
……そこのシスターさんも一緒にどう?」
「ついて行ってみたらワンチャン、エクセア様の良いところも見つかりますかね……?」
うるうるのシスターだが、答えはノーだろう。
少なくとも、俺がこれまで見たエクセアの良いところは……メンタル強いとか、楽しそう……とか?
「まあ、颯太のいう通り……これから色々説明するよ。
良かったら、二人ともおいで〜」
というわけで、早速教会の外に出てみる。
……すげぇ、石レンガでできた床に洋風のおしゃれな建物たち。
別に、地球になかったものかと言われればそうでもないが、それでも異世界にきたのだと頭が理解する。
「そうだな、まずはギルドに行ってみるとしようか」
「ギルド!?……めっちゃ異世界っぽい。
もしかして、俺ももう能力に目覚めてるとかあんの?」
「多分ですけど、ありますよ……ただそれがなんなのかも分からずに使ってしまうと危険な目にあうこともありますから、ギルドで確認してもらうんです」
へー、いわゆる職業的なやつか。
どうやらこの世界では、適正によって生まれた時から既に職業が決まってるらしい。
猛攻で攻め立てる剣士に、魔法で一掃する魔法使い。
変わり種なら、ビーストテイマーに忍まで。
自分がどんな職業になるのか、様々な妄想が止まらない。
見える建物たちの中でも、一際目立つ大きな建物。
一瞬でそこがギルドと分かったのは、俺がこれまで見てきた異世界アニメたちの知識のおかげであり、決して「GUILD」と書いてある立て看板が目に入ったからではないだろう。
ギルドの中には、筋肉ムキムキに大きな斧を抱えた男。
から意味のこなしの探検使い。
明らかに主人公っぽい風格の、爽やかな人。
……うん、ギルドって感じする!
「どもども、この子の鑑定お願いね〜」
「はーい、それじゃ手を大きく上げてピポログビーントラベラムベラムハンデース……と唱えてくださいね?」
「え……ピポログ……何?」
俺が呪文を唱えることを待たずして、青白く光出す俺の周りの景色。
その風に仰がれるような、どこか心地いい感覚を覚えた後、俺の目の前に役職が映し出される。
「トラッパー」
……ん、トラッパー?
つまり罠使い?……まあ、あんまり予想にはなかったけど、トリッキーな感じで格好いいじゃないか。
「おお、トラッパーですか……。
ええと……すいません珍しくて……」
ギルドの人が、恐らく職業図鑑のようなものなのだろう分厚い本をペラペラとめくっていく。
「あ、ありました!
トラップを仕掛けることによって、相手にダメージを与えたり、妨害をしたりする職業。
設置にはある程度、時間がかかるもののその罠に相手を誘い込めれば大ダメージが期待できる……」
「ダメージ出すのに、何でそんな回りくどいことする必要があるんですか?」
「……………………」
シスターのズバッとした言葉に周りが静まり帰る。
うん、正直思ったよ……何か使いづらそうだなって。
そうして肩を落とす俺を、エクセアが慰めてくれる。
「いや、大丈夫大丈夫!
……ほら、この世界ではパーティを組むのが主流だからね!連携とかで活躍しそうじゃない、罠って!」
「……そうかな」
完全に暗くなっている俺の手を引っ張るエクセア。
テンションが下がってしまった俺は無気力に彼女の後をついていく。
「ほら、どうどう?
約束通り、かなり大きい豪邸のプレゼントだよ!」
上を向けば、とんでもなく大きな家が広がっている。
まるで、海外セレブの別荘みたいなサイズだ。
……そういえば、転生するときに豪邸をつけるとかそんなことを言ってたっけ。
下がっていた俺のテンションも、どうしても上がってしまう。人間は本能的に、大きい家が好きなのだ。
「あ……あ……」
隣に気付けば合流していたシスター。
彼女も今日から、俺がこの家に住むことに驚くどころか狼狽えているようだ。
少し頭を悩ます様子を見せた後、俺の真ん前に立ち塞がる。
「私、ヒーコです。
良ければ、私とパーティを組みませんか?
……あとついでにこの家に私も住ませてください」
ボソリと超重大なことを言った彼女だが、一旦異世界での冒険にワクワクしている俺は聞く。
「ヒーコは、どんな職業なの?」
「私は、聖職者……つまりはヒーラーですよ!」
「ヒーラー……めっちゃ良いじゃん」
そんな中でも、俺は今日一日の記憶を巡る。
……そうか、多分ヒーコの家ってあの教会だったりするのか。
他に部屋も無さそうだったし、寝る時は硬いベンチで……全く、どこまでも不憫だ。
「うん、俺も聖職者の仲間いたらすごい心強い。
これからよろしくね、ヒーコ」
先行き不安な異世界での生活。
だけどそんな中でも、初めての仲間ができた。
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