1.俺が異世界に転生するまで
昼間にも関わらず、カーテンを閉め切って薄暗くなっている部屋。
いつも通りの習慣で、アプリゲームの周回を繰り返しているがその手はちょくちょく止まってしまい、ついついその視線はパソコンの画面に吸い込まれる。
画面に映るアイドルは、楽しそうに生配信をしていた。
「……えーと、たつのおとしごさん!
めちゃめちゃ応援してまーす、ありがと〜。
洋楽が好きとお聞きしたのですが、何が好きですか?
んー、そうだなぁ……」
ガタッ……!
自分のコメントが読まれた、すごい勢いで流れていくコメントたちの中で……こんなのはファンになってから一年経って初めてのことだ。
「……よし、よし、よっしゃぁ……」
あまりの非現実さに浮いたように軽くなる身体。
動き続けていないと、収まらない喜びに応えるように変なダンスを踊ってしまう。
家ではほとんど動かない俺が、そんなことをするとやっぱりぎこちなくて。
フローリングと靴下の相性が悪くて、ツルリと体勢を崩す。
目線の先には、ベッドの背もたれみたいな部分。
その角が迫ってきて……
「うあああああああああああああああああ!」
……は?
周りは真っ暗な空間、その中心だけが照明で照らされて明るくなっている。
その明かりの下、一人の美しい女性が髪を靡かせながら座っていた。
「ええと……横山颯太さん……ですよね」
「……はい、そうです」
「今この状況……よく分かっていないと思うのですが。
とりあえず、あなたはお亡くなりになりました。
私は死後のご案内をさせていただく女神の一人です」
どうしても信じられない。
だってこれまで生きてきた十数年で、死んだ時のことなんかほとんど考えたことがなくて。
だから実感も湧かないし、未だにまだ死んでしまったのだとも思えない。
「あの……俺ってもしかして……」
「はい、先ほど映像を確認しましたが。
ダンスを踊って、勢い余って転倒してしまったことが原因のようです」
「……その映像って、女神様も見ました?」
「…………私は、あれだけ喜べることは非常に健康的だと思います……よ?」
きゃあああああああああああ!
めっちゃ見られてた、恥ずかしい……。
気遣って無理に笑っている女神様の様子がむしろ、俺の共感性羞恥を抉ってくる。
客観的にどんな風に映っていたかは知らないが、少なくとも見れたものではないだろう。
「と、とにかく……そんな悲劇的な最後を迎えられたわけですが、悲観するにはまだ早いのです。
貴方には、これから少なくとも3つの選択肢があります」
正直、悲しさより恥ずかしさが勝っているのが現状なわけだが、3つの選択肢という言葉に耳が反応する。
一旦、前世の過ちは忘れてこれからについての話を聞くことにシフトした。
「まず一つ目……それはこの死後の世界でダラダラと過ごすことです。
基本的には同じ魂との雑談したり、他の世界を見ながら実況中継したり、後は……まあ……そんな感じです」
女神様の反応を見る限り、あんまりやれることは多くないらしい。
正直、他の世界の実況中継というのには興味はあるものの、普段から人と話さない人生だった。
楽しいと思えるのは最初の3日くらいなんじゃないだろうか。
「二つ目は死後の世界で仕事に就くこと。
今なら……地獄で業火の中に入って、人が逃げ出してしまわないように抑える……」
「なしで!」
あまりにも無しだ、一つ目の提案に比べても全く気乗りしない。
……頼む、後一つはもうちょっとマシな提案であってくれ。
「最後は、一度くらい聞いたことあると思います。
異世界転移なんていかがでしょうか?」
「……!
それで、それでお願いします!」
アニメで見たことあるやつ……これしかない。
他の二つの提案があまりにも無しだったこともあって、すぐにこの提案に乗る。
「……ちょっと、今の提案聞いたわよ〜」
と、急に俺の頭が脇に抱えられる。
……酒くさっ!一体何なんだと思っていたが、女神様と似たような風貌の誰かが、俺にダル絡みしてきていた。
「私の世界、絶対来た方がいい!」
「ああ、とある異世界の女神様ってことなんですね」
「ええ?……あんた……めっちゃ頭いいじゃない!
そうそう、優遇したげるから来なさいよ〜!」
良いじゃん、なんか女神っぽくないけどそれがある意味親しみやすさすら感じる。
この人が管理する世界って、面白そうだ。
……が、さっきまで話していた女神様の表情が明らかに微妙そうなことに気づいて安易な自分の考えを取り消す。
「……もしかして、不都合があるんですか?」
持った疑問にビクッと上がる酒飲み女神の肩。
その後、未だに俺のことを離さないその腕はブルブルと震え始める。
「……えっちゃん、ちゃんと話した方が良いのではないですか?」
「嫌だよ〜!これでまた諦められたら私泣いちゃう〜!」
えっちゃん……に話を聞いたところで恐らくはぐらかされるだけだと思った俺は、女神様に視線を戻す。
仕方ない、と言った感じで俺に事情を話してくれる。
「えっちゃん……いえ、女神エクセアが統治する世界はまさしく鬼畜難易度、攻略不可能とすら言われる世界なんです。
そのせいか、その世界から戻ってきた人たちは口々に異世界転移以外の道を取るんです……」
……マジか。
「あの、異世界転移って他の世界を選ぶこともできるんですか?」
「ええ、もちろ……」
「でも、私の世界なら優遇するよ!?
ほら……でかい家とか、後は後は……別荘とか!」
「……俺、不動産でもやると思われてますか?」
エクセアさんは、俺に泣きついてやっぱり離れてくれない。
「お願いだよ〜、私も天界では基本的に冷たい目で見られてて、上司にも怒られてばっかなんだから〜……」
それは、世界どうこうじゃなくてこんなタイミングにまで酒飲んでるからじゃないのか……。
そんなことを思ったりもするが、
「分かった分かった……じゃあ、その世界に行かせていただきます」
「……え、本当によろしいんですか?」
「その代わり、次またここに戻ってきた時はそれこそ優遇してください」
「あびがど〜!」
結局俺はどうしても押しに弱いようだ。
どうせ、俺の中では異世界に行くしか選択肢がない。
だったら、最初の世界で洗礼を受けておくのもありかもしれない……と、自分に言い聞かせてみる。
「それでは、早速その世界へとお繋ぎいたします。
どうか……えっちゃんの力になってあげてください。優しい、転移者さん……私も応援してます!」
自分の周りが眩く輝き始める。
どうやら、俺のセカンドライフが今にも始まるようだ。
色々不安はあるものの、やっぱり胸の奥から湧き出るワクワクは抑えられない。
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