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 高校二年になったということもあり、俺は新しい目標を一つ立てることにした。


(悠以外にも仲がいい友達を作ること。……って、これじゃ小学一年生じゃん)


 友達百人できるかなの世界だ。これが高二の目標っていうのはどうなんだろう。それでも悠のためにもなると思って、さっそく実践することにした。

 といっても、これまでより悠と過ごす時間を少し減らすことくらいしか思いつかない。友達なんて相手あってのものだから、無理やり作ろうと思ってできるものでもない。とくに俺と悠は幼馴染みでもあるわけで、同じように何でもわかりあえる友達なんて簡単にできるものじゃないこともわかっていた。


(でも、俺がべったりだと悠にも友達ができないってことだし)


 どうせ大学に行けばどうせ一緒にはいられなくなる。俺か悠のどちらかが遠い大学に行って一人暮らしになれば、こうして毎日顔を合わせることもできない。


(……それはちょっと嫌かも)


 悠に会えなくなるかもしれないと思うだけで胸がザラザラした。購買で一番人気の焼きそばコロッケパンを食べたっていうのに気分がどんよりする。ちなみにそのパンをゲットしたのは俺ではなく悠だ。


「なぁ、おまえらケンカでもしたの?」

「え?」

「最近、二人そろってないこと多いよなと思って」


 そう言ったのは一年のときも同じクラスだった金本だ。昼飯のあと用事があるからと教室を出て行く悠を見送った俺は、一緒に昼飯を食べていたほかの三人とダラダラ過ごしていた。「おまえら何かあった?」なんて聞いてくる金本に、「二人って、神林と誰のこと?」と尋ねるのは二年で初めて同じクラスになった塩屋だ。


「山内だよ」

「神林と山内って仲いいんだ」

「仲がいいっていうか、ほとんど兄弟だよな?」

「だから違うって言ってんだろ。俺たちはただの幼馴染みだって」


 否定する俺に「へぇ、幼馴染みなんだ」と言いながらスマホを見ていた栗本が顔を上げる。栗本も二年になって初めて同じクラスになったクラスメイトだ。


(そういえば栗本もバレンタインチョコ、もらったって言ってたっけ)


 二月にそんな話を聞いた気がする。改めて栗本の顔を見ると、たしかに女子たちが騒ぎそうな顔をしていた。「まぁ、悠のほうがイケメンだけど」と思った自分に「だから悠のことばっか考えるなよ」と心の中で突っ込む。


「幼馴染みっていうか、ありゃ世話係だな」


 そう言い切った金本を「なんだよそれ」と睨むが、「だってそうじゃん?」と反論されて苦とを閉じた。たしかに至れり尽くせりな現状を見たら、そう言われても何も言い返せない。


「おまえら一年のときからそんな感じだろ? 何かあると山内は広樹の世話焼くし、山内がいないとおまえ生活できないんじゃねぇのって、みんな言ってるぞ」

「そりゃすごいな」

「塩屋、本気にするなよ」


 素直に感心する塩屋に釘を刺しながら、金本をもうひと睨みする。「睨むなって」と首をすくめる金本に、今度は栗本が笑いながら「山内ってそんなに優しいんだ?」と言い始めた。


「もはや優しいってレベル超えてるぞ、あれは」

「イケメンで優しいとか、それなら他校の女子たちに人気があるのもわかるね」

「そういう栗本も人気者だよな?」


 きっとバレンタインチョコのことを言っているんだろう。金本の言葉に栗本が「そんなことないよ」と笑う。


「ま、山内相手じゃ、ひがむ気持ちにもなんないけどな。だってあれ、天然のイケメンだろ?」


 ぼやく金本に塩屋までもが「わかるわかる」と頷いた。


「そんな素敵な彼氏なのに放っておいていいんだ?」

「……は?」


 栗本の言葉に一瞬空気が凍りついた。見れば金本と塩屋もギョッとしたような表情をしている。しかし栗本はけろりとした顔で「誰かに取られちゃうよ?」とまた口にした。


「……いや、言ってる意味わかんないんだけど」

「彼氏みたいに世話を焼いてくれる大事な親友を誰かに取られてもいいのかなって、ちょっと思っただけ」


 栗本の言葉に金本と塩屋が「あぁ、なるほど親友か」と苦笑いを浮かべる。


「たしかに広樹と山内は親友だよな。幼馴染みで親友……いや、やっぱり兄と弟のほうがしっくりくるか」

「だから兄弟じゃないって言ってんだろ。金本、おまえわざと言ってるよな?」


 さっきよりも強めに睨むと「あはは」と金本が笑った。つられたように塩屋と栗本も笑う。俺も「ったく」と笑いはしたものの、栗本が言った「誰かに取られちゃうよ」という言葉がなぜか頭から離れなかった。

 栗本の言葉がずっと気になっていた俺は、ホームルームが終わるのと同時に「一緒に帰ろうぜ」と悠に声をかけていた。


「ちょっと待ってて」


 そう言って悠が荷物をまとめるのを見ながら「だから俺は!」と、またもや心の中で突っ込んだ。


(こういうのをやめようって思ってたはずなのに)


 せっかく一緒にいない時間を作ろうと決心したのに、これじゃ何の意味もない。そう思いながらも、こうして一緒に歩いているだけで気分が上がるのを感じた。


(昼休みは一緒にいないことが増えてきたし、目標に向かってちゃんと実践できてる……よな)


 それに最近では悠のほうから別行動を取ることも増えてきた。今日みたいに一緒に昼飯を食べても、悠のほうが「用事があるから」と言って教室を出て行くこともある。昨日は俺のほうがそうで、その前は悠のほうがどこかへ行っていた。


(もしかして俺が避けてることに気づいてるとか……って、まさかな)


 そう思ったものの、あまりにもタイミングが合いすぎているような気がして気になる。一度気になると、悠がどこに行くのかまで気になってきた。

 そういえば、小中高とこれまで昼休みのほとんどを一緒に過ごしていた。委員会も一緒だったから体育祭や文化祭みたいな行事も一緒で、当然修学旅行も同じ班だった。高校に入ってからも帰宅部だから、こうしてほとんど一緒に帰っている。


(こういうのがダメってことだよな)


 だからこそ新しい友達を作るなんて目標を立てた。それなのに結局こうして一緒に帰っている。本当は今日も別々で帰ろうと考えていたのに、栗本の「誰かに取られちゃうよ?」なんて言葉が気になってダメだった。


(別に取った取られたって話じゃないのに)


 わかっているのに俺以外の奴と仲良くする悠を想像するだけで胸がザラザラした。友達ができるのはいいことのはずなのに嫌な気持ちばかりが膨れ上がっていく。


「どうかした?」

「……え?」

「いや、ずっと黙ってるからどうしたのかなと思って」

「あー……今日の宿題、面倒そうだなぁと思ってさ」

「数学? それとも英語?」

「数学の宿題なんてあったっけ……って、そうだった! うわー、すっかり忘れてた」

「やっぱり。じゃ、一緒にやっつける?」

「俺、たぶんわかんないところばっかだと思うんだけど……」

「はいはい、ちゃんと教えてあげます」

「やった!」


 ガッツポーズをしたところでハッとした。「だから、こういうことがダメなんだよ!」と自分で自分を叱る。それでも「やっぱり一人でやるからいい」とは言い出せなかった。


(これは宿題をやるためであって、別に甘えてるわけじゃないし)


 そんなのただの言い訳だ。結局俺は悠と一緒にいたいんだとつくづく思った。「はぁ」とため息をつくと、悠がいつものようにポンと頭に手を置く。ところがいつもならすぐに離れる手がいつまで経っても離れない。


「なんだよ?」

「いや、ちょっと長く一緒にいすぎたかなと思って」


 どうしてそんなことを言うんだろう。初めて言われた言葉に、胸が妙にざわつくような嫌な感じがした。

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