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タマラと世界の見え方

 

「これからはいつも、タマラの出してくれる美味しいお茶をいただけるわよ。紅茶だけでなく、他の飲み物もいつも美味しいの。」


「あ、エリナもこのお屋敷に滞在するのかにゃ?珍しいにゃ!」


 ――エリナ()


「え、あの。私ずっとここにいるんですか?」


 いつのまにか、このお屋敷に滞在することになっている。今に夢から覚めるのではないか。なんて考えていたエリナは二人の会話にとても驚いた。


「私、気づいたら誰もいない街に一人でいたんです。洋館が見えたから、小さな船を見つけて、自分で漕いでやってきたんですけど…」


「え、一人?自分で川を渡ってきたにゃ?!」


「あ、はい。岸に着いた後は、くまさんがここまで連れてきてくれましたけど。」


「本当に、どこにも、誰もいなかったのかにゃ?」


「はい、誰もいませんでした。…え、どういうことですか?もしかして、不味かったんですかね?!」


 お互いに明らかな戸惑いがあった。困惑していると、タマラは背中を丸めてしょんぼりした。


「はあ~エリナ…もう、大丈夫だにゃ。もう誰も、エリナを見捨てたりしないにゃ。」


「はあ…」


 ドキリと、心臓をつかれたような感覚になった。なぜタマラが突然そんなことを言い始めたのかが気になる。心当たりは、あるような、ないような。


「ここに来る前のことは?」


 ラウラに尋ねられたが、なんとなく溺れた記憶のことは話したくなかった。しかし嘘を言いたくもないので、曖昧にして伝える。


「それが、あんまり覚えていないんです。気がついたら、街の中に一人で立っていました。」


 二人の質問に答えていくにつれ、少し怖くなってくる。その気持ちがふとした何かで悟られてしまう前に、こちらからも質問を投げかけてみる。


「タマラとラウラは、ここに住んでいるのですか?」


「私は…そうね、ずっとここにいるわ。ここを訪れる人たちと、こうやってお茶をしながらお話したりして、おもてなしをしているの。タマラは…」


「タマラはワーキングホリデー中にゃ!長期休暇の申請が通ったから、仲良しのビクトリアと一緒にこのお屋敷で好きなことして過ごしてるんだにゃ~。」


「……なるほど?」


 この世界ではネコちゃんもくまさんも、私のいた世界の人間と似たような社会を形成していると考えてよいのか。


「まあ、エリナのもといた世界とは色々と違う部分もあるかもにゃ。」


「!」


 まるで思考をまるごと読まれたかのようなタイミングだった。それに先ほどから奇妙さは感じるが、不思議なことに不快感はない。エリナはそのまま会話を続けた。


「それって所謂、異世界…みたいな?」


「それ今、人間の間で流行ってるのかにゃ?ここを訪れる人たちも、たまにそんなことを言うにゃ。」


「わたし、最初はここが夢の中だと思ってたの。なんなら今でもそう思ってるっていうか…全然覚めないから、違うかもしれないけど。」


「夢と捉えるのなら、それも間違ってはいないにゃ。」


「じゃあ、死後の世界?」


「うーん、それは人によるにゃあ。」


 タマラはふわふわの前足をアゴ元もってきて、宙を見つめ考えながら話している。


「まあ、死後の世界も、夢の世界も、異世界も、たぶん本質的にはそう変わりないにゃ。」


 急に哲学的なことを言われ、エリナは一度開けた口から何も言うことができなくなって口を噤んだ。


「エリナ、世界の見え方は、人それぞれだにゃ。死後の世界だと思えばそうだし、夢の中だと思えばそう。エリナがいたあの街にも、本当はたくさんの人がいたかもしれないし、いなかったかもしれない。色んな捉え方があって全てが正しいけど、確定はしていない。そういうものなんだにゃ。」


「いや、それは無理があるんじゃない?たくさん人がいて、気が付かないなんてことあるわけ…」


「あの~、すみません…」


 熱が入りかけたところで、聞いたことのない女性の声が割って入った。

 声の発生源、庭園の方を見下ろすと、ダークなピンク色のロングヘアで日本人っぽい、小柄でオシャレな女の子がこちらに向かって話しかけてきていた。


「あの、すみません。私、迷子になっちゃったみたいで。どうやったら、駅に戻れますかね?」


 ――迷子?


「ああ、今日はお客さんが多い日だにゃ!」


 タマラが嬉しさの滲んだ声をあげる。エリナが戸惑っていると、すでに立ち上がっていたラウラが彼女の前にたたずんでいた。


「こんにちは、私はラウラ。この洋館にいらっしゃった、お客様のおもてなしをさせていただいております。ひとまず、こちらへお上がりくださいな。」


 テラスの階段下まで降りたラウラが、迷子だという少女に声をかける。同じタイミングでくま執事も、銀のワゴン付近で何かテキパキと準備している様子で、エリナはこの迷子の彼女もお茶会に参加するのだなと分かった。


「じゃあ、お言葉に甘えて。おじゃましまーす。」


 迷子の少女は素直にラウラに従い、テラスへやってきた。挨拶をしようとエリナはその場で席を立つ。


「こんにちは、初めまして。エリナと申します。」


「!こんにちは、私はさゆみです。日本人の方ですよね?」


「はい!そうです。」


「わあ~、よかったあ!急に外国になっちゃったから、焦ってたんですよ~。」


 ――急に外国?…もしかして、私と同じあの街で?


「私はタマラだにゃ!さゆみ、よろしく!」


「え!かわいい~」


「ふふふ…さあ、まずは座って。お茶をいただきながら、お話をしましょう。さゆみは、紅茶は飲めますか?」


「はい、いただきます。ありがとうございます!」


 とても素直で元気のよい返事で、それだけで好印象をあたえるような明るい子だ。くま執事が椅子をひき、さゆみを座らせる。そしてすぐにワゴンまで戻ると、彼女の分のティーセットを運び目の前に置いた。


「わあ~!すごいオシャレ!写真撮っていいですか?」


 そういってさゆみは携帯を取り出す。


「ええ、どうぞ。」


「ありがとうございまーす。」


 パシャ、と手際よく写真を撮っている様子を眺めながら、カップに口をつける。気がつけばカップは再び紅茶で満たされていた。いつの間に淹れたのか分からなかったが、くま執事が全員の分の紅茶を淹れなおしてくれていたのだろう。


 ――忍者みたい。


「じゃあ、いただきます。…わあ!この紅茶美味しいですね!」


「この紅茶は、私が用意したんだにゃ。」


「え~タマラさんが?すごい!」


「タマラでいいにゃ。おかわりどんどんして、スコーンもあるからにゃ。」


「ありがとうございます~。」


 適応力がすごいなあ、なんて思いながらパイをかじっていると、ラウラがさゆみに話しかけた。


「さゆみは、どうやってここまでやって来たのですか?」


「ああ、そうだった。私、終電のがしちゃって。だから、近くの友達に迎えに来てもらおうとしたんですけど、無理だったから歩いて帰らなきゃいけなくなって。で、歩いてたら迷子になったんで駅に戻ろうとしたら、この場所に着きました。」


 なんということだろうか。


「そうだったの、大変だったわね。」


 ーーえ、これ普通のことなの?


「もう、本当に最悪でした~!友達も、私がピンチの時は全然助けてくれないし!」


 思い出してプンプンと腹を立てている様子のさゆみは、ぐっと紅茶を飲みほす。


「ていうか、聞いてくれますか?!マジで!」


 ――あ、これスイッチ入ったんじゃないかな。


 果たしてさゆみの迷子は解決するのだろうか。全く関係のない身の上話が始まりそうな雰囲気に、エリナは苦笑いをこぼした。


20241014_修正

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