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精霊様の石


 水面に現れた彼女は妖精とは違いエリナたちより少し大きい人型で、その姿は尋常ではないほど美しかった。ギリシャ彫刻のような流れる水衣に、絹糸のような髪の毛、美しい顔立ち。見惚れていたエリナだったが、彼女が水面を渡ってするするとカルロとグアダルーペに近づいて来たのをみて我に返った。エリナは小走りでカルロの横までやってきて、彼の顔を覗き込んだ。


「ん?どうした、エリナ?」


 こんなに美しい存在を前にしてもカルロはいつも通りだった。エリナは何故かホッとしたのと「これに見惚れないってマジ?」と思うのとで非常に複雑な感情におそわれた。眉間にしわを寄せながら奥のグアダルーペの方をみると、グアダルーペの方は顔を見てハッキリとわかるくらいに女神のような彼女の姿に見とれていた。


 ――だよね!見惚れるよね!


 エリナがグアダルーペに共感していると、同じく後からやってきたマリーサがグアダルーペの隣までやってきた。弟の表情を見てすぐマリーサが頭をどつき、その衝撃でグアダルーペは我に返った。


「はっ!女神様!」


「ちょっとグアダルーペ!彼女はあなたに用事があってやって来たんじゃないの?」


 マリーサの発言にその場の全員が水面に現れた美しい女性をじっと見つめると、彼女はくすくすと笑っていた。全員が女性の方に注目し、彼女の出方を待った。すると、女性がスッと右手を上げる。そのまま何もない所に向けて手をかざすと、かざした手のひらの先の空間からばしゃり、と音を立てて水色の石と紫色の石の二つが出現した。


「?あれ、なんか私の石に似てる…」


 シャルロッテがポケットから石を取り出すと女性は控えめに微笑んだ。明らかに人ではない存在だろうが、なんとなく血の通った温かみを感じる微笑みだとエリナは思った。彼女はその場を見渡して全員の顔を確認するとゆっくりと口を開いた。


「…石はつながり。きっとあなた方のチカラになるでしょう。」


 想像よりも低く美しいアルトの弦楽器の音色のような声。体の芯に響くような不思議な声音だった。彼女が宙に出現させた水色の石と紫色の石はそれぞれ、カルロとグアダルーペの前までやって来る。二人が自然と手を前に差し出すと、石はコトリとそれぞれの手のひらにおさまった。その様子に気を取られているうちに前方からピチャンという音がして、気づけば彼女は消えてしまっていた。一人ずっと彼女を見つめていたエリナだけが、彼女が消えるまでのほんの一瞬に、彼女と目が合ったきがした。こちらを見つめる彼女はやはり微笑んでいたように見えた。


 その場に、静寂が訪れる。


「ねえ、もしかして今のって…」


 静けさを破って、まずマリーサが声を発すると


「…あれは精霊様だよ。」


 という声がした。声の方を振り返ると、そこにいたのは先ほど森で別れた妖精のミリアだった。


「ミリア!」


 ばしゃっと、音を立てて水色の服をきた妖精が駆け寄りミリアの目の前で嬉しそうに宙がえりをする。近寄って来たその子に、ミリアが持っていた花束を渡すと「ありがとう!」といって水色の妖精は水中へと帰っていった。その姿を見送って、ミリアはこちらを振り返った。


「あなたたち、水の精霊様にあえたんだね。よかったじゃん。」


 ミリアの言葉に、その場には「やはり」といった空気が流れる。


「やっぱり精霊様だったのね。ここへはよくいらっしゃるの?」


 マリーサが尋ねるとミリアは頬に手を当てて考えるそぶりを見せた。


「いや、精霊様が人間に会うのは珍しいって言うか、初めて見たわ。」


 やはり稀有なことらしい。確かに、あんなに美しい存在が人間の前に姿を現し放題していたら色々な問題が頻発する気がする。そんなことを考えている隣でグアダルーペとカルロは顔を見合わせ、困惑の表情で石の存在を持て余していた。


「俺たち、なんかキレイな石もらったけど…」


「ああ、それは肌身離さずもってなさい。あなたを助けてくれるわ。」


 ミリアは言うだけ言うと、用事は済んだとばかりにさっさと森の方へと帰っていってしまった。


「気まぐれ。だけど律儀なのね」


 マリーサの言葉にエリナもシャルロッテも頷いた。石を受け取った男性陣二人は、手の中の石を転がしたり、光にかざして見たりしている。


「そういや、シャルロッテも、石をもってるんだよな?それはどうしたんだ?」


 精霊様の出現よりも石の存在の方が気になっているカルロに尋ねられ、シャルロッテは先ほど森であった出来事を話した。彼女の話が一通り終わった後、カルロは頭を掻きながら考えこみ、グアダルーペは唇をとがらせていた。


「つまりシャルロッテも精霊からもらったのか。」


 そういうとカルロはくるりとこちらを向いてやって来て、石を持っている方の手をエリナの前に差し出した。


「ん。これエリナにやるよ。綺麗だし、ためになるらしいから持ってな。」


 予想外の言葉にエリナは面食らった。カルロの意図が全く読めない。


「え?いや、なんで?もらう理由がないよ。あの人はカルロにってくれたんじゃないの?」


「俺のものになった後、お前のものになるだけだ。俺はこれをエリナにあげたい。」


「いや、なんで?」


「そうしたいと思ったから。逆にどうして受け取れないか聞いても?」


「だからもらう理由がないよ。」


「理由は、俺がプレゼントしたいと思ったから。」


「う…なんか、どうしたらいいんだろ。」


 それでも抵抗のあったエリナは、しばらく押し問答を続けたが、最後までカルロの態度はかわらなかった。なんて頑固なんだ!と思いつつも結局、エリナはその水色の石を受け取ることになってしまった。「預かっただけ」だと自分に言い訳してみるも、石の所有がカルロから自分に移ったことに変わりなかった。


「ありがとう、カルロ。色々言ったけど、気持ちは嬉しいよ。」


 エリナがお礼を言うと、カルロは「おお」とだけ返す。ややぎこちない空気が流れ、二人はしばらく無言になった。

 二人の横では、グアダルーペもマリーサに石を渡そうとしてひと悶着あっていた。グアダルーペの方は精霊様にもらったものを「要らない」と言って姉に渡そうとしていた。せっかく貰ったものを要らないだなんて、と弟を叱るマリーサだったがグアダルーペの意思も固く、マリーサに受け取れと言って譲らない。この男性陣の(かたくな)さはいったい何だろうか。譲らないその姿に、結局マリーサもエリナと同じく白旗を揚げ、最終的に紫色の石はマリーサの手中におさまった。エリナと異なる点は、受け取ったマリーサがかなりイライラした様子だったということだ。


「これ半分にならないかしら。半分に割れたら姉弟二人して持てるのにね?たたいたら割れるかしら?」


 かなり苛立った様子で物理的解決方法を口にしたマリーサは、紫色の石を岩の上に置き、言葉通りに側に落ちていた大岩を両手で持ち上げたかと思うと、本当に紫色の石の上に落とした。


 バキン!


「「え!?!」」


 エリナとシャルロッテが同時に悲鳴を上げ、エリナは驚きで顔が引き攣っている。そんなことにはお構いなしにマリーサが落とした岩をゆっくり持ち上げると、岩上の紫色の石はキレイに二つに割れていた。


「どんなもんよ。」


「すごーい!」


 マリーサが髪をかき上げて得意げにする横で、今は尊敬の表情で彼女を見つめるシャルロッテが拍手喝さいを贈っている。エリナはさすがマリーサだなと呆れ半分で笑いながら、遠目に拍手に合流した。


「はい、これは弟の分。こっちは姉の分。」


 マリーサがそう言って「やり遂げました」みたいな表情で誇らしげに石を渡すと、グアダルーペは心底嬉しそうに紫色の石を受けとった。石を受け取ると、悪だくみを思いついたみたいな顔で姉の方を見る。


「精霊様にもらったのに、割っちゃうなんていけないなあ!」


「関係ないわ。だって双子に一つの物を渡すほうが、非常識じゃない?」


 そういってウィンクするマリーサに、弟のグアダルーペはニヤリと笑った。


「さすが、俺の姉さん!」


 弟に褒められてマリーサは満面の笑みだ。嬉しくなった彼女はグアダルーペに親愛のハグをした。仲睦まじい姉弟の二人をみていると心がふんわりとしてくる。シャルロッテも楽しそうに二人を見守っていた。

 そんな三人の様子に思わず笑顔になったエリナは、自然とカルロの方に顔を向ける。するとカルロもエリナを見ていたらしく、目が合うと珍しくビクッとなったカルロの目がまん丸になった。その表情がなんだかおかしくてじわじわと笑いが込み上げてくる。ニヤついたエリナの顔もおかしかったのだろうか、カルロの口元にも次第にこらえきれない笑いが見て取れた。そうして二人はどちらからともなく、また笑い合うのだった。



20241017_修正

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