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湖の宝物

 

「へえ、他の人間もいるんだ。」


 ピンク色の妖精、ミリアが突如三人の前に現れてしばらく経った頃、すっかりお茶会に馴染んだ彼女はクッキーをガツガツと頬張りながら会話に参加していた。


「そう。湖で釣りをするんだって。」


「あの子たちと遊んでくれるなんて優しいのね。」


「あの子たちって?」


 シャルロッテはどこか期待のこもった眼差しでミリアを見ている。


「湖にいる妖精たち。」


「やっぱり!」


 期待通りの答えをもらえたらしくシャルロッテは嬉しそうだ。


「え!湖での釣りって、妖精を釣り上げるの?!」


 横でマリーサが驚いていると、ミリアは呆れた表情でため息をついた。


「違うわよ。妖精は釣り針がたらされると、いたずらに色んなものを釣り針にひっかけて遊ぶの。」


 どうやらカルロが話してくれた内容とは少し違うようで、エリナは雲行きが怪しいなと思い彼女の話の続きを聞くことにした。


「湖で釣りをすると宝物がもらえるって聞いたけど、それはどうなの?」


「何を想定しているか知らないけど、人間が喜ぶものなんてそうそうないと思うわよ?」


 ミリアは少し馬鹿にしたような態度で、それでも尋ねたことにはしっかり答えてくれる。これがツンデレというものなのかなと考えながら、ミリアの答えに頷いておく。


「そうなんだ。妖精の遊びに付き合ったら、気まぐれに何かもらえるみたいな感じなのかな。」


「妖精たちは基本的に精霊様の指示のもとに動いているから。仮に宝物のようなものが手に入るときは精霊様のご意思あってのもの。釣りの努力とか技術は全く関係ないわ。逆に言うと、必要であれば何もしなくても手に入るの。ほらさっきの、シャルロッテみたいにね。」


 ミリアがシャルロッテの方を向いてニコッと笑う。彼女は精霊様に石をもらったシャルロッテをかなり気に入ったようで、シャルロッテに対してだけ態度がやわらかい。そのことに気がついているシャルロッテは二人に遠慮をしてか少しぎこちない笑顔だったが、エリナもマリーサも特段気にしていなかった。


「それにしても人間って細かいことが気になるのね。確かに感情の流れを追っていると面白いけど、思考は複雑だわ。タマラもビクトリアも物好きね。」


 ミリアはそう言って立ち上がり、再び宙に舞うと手をパンパンと叩いてクッキーを払った。それから三人の顔を順番に眺めた後、


「じゃあ、美味しいお菓子をありがとう。またね!」


 そう言って、飛び立っていった。

 が、すぐに踵を返して一言だけ言いに戻ってきた。


「シャルロッテは、その石を肌身離さず大切にしなさいね。精霊様からのお言葉よ。」


 そうして今度こそ森の奥へと飛び立ち姿が見えなくなったのだった。三人は急にやって来て急に去っていった妖精の後ろ姿をしばらく見送っていたが、マリーサが「ふう」と息を吐いたのを合図のようにして、お互いの方に向き直った。


「なんか、すごかったわね。勢いとか。」


「マリーサでもそういうこと思うんだね。」


「妖精さんって初めてだったからちょっとドキドキしたわ。」


 シャルロッテはミリアにもらった赤い石を光にかざして見ていた。木々の間から指す光が弱いので控えめではあるが、それでもキラキラと光っている。


「綺麗だね。その石、なんだろう。」


「落とさないように、ポケットかなんかにしまっておきなさいね。」


 マリーサがそういうと、言われた通りにシャルロッテはポケットの中に石をしまった。


 ――貴族の服って、ポケットあるんだ。


 妙なところが引っかかったエリナだったが、すぐに服への興味は薄れた。

 それからしばらく三人だけで他愛ない話をしながらお茶の時間を楽しんだ。みんな知り合ってそこそこの時間が経つ間柄だが、話すことはまだまだ尽きない。会話が二、三回ほど盛り上がりをみせたあと、エリナは二人にそろそろ湖の方へ戻ろうかと聞いてみた。


「そうね!どのくらい経ったのかしら。妖精さんが来てからたくさんお話したし、もう戻ってもいい頃合いなのかもしれないわ。」


「そうね。」


 二人ともグラスをエリナに渡しクッキー皿をバスケットに回収した。最後に敷物もバスケットの中にしまったら三人で来た道を戻っていく。さくさくと鳴る足音に耳を傾けながら歩いていると、行きよりも早く森を抜けて元の草原へ戻ることができたような気がした。元の場所に戻り湖の方をみると、カルロとグアダルーペの二人組はまだ釣りをしていた。


「まーだやってるわね二人とも。あれって魚が釣れるわけじゃなくて、ただ妖精と遊んでいるってことなんでしょ?そんなに楽しいのかしら。」


 そう言いつつも、マリーサは興味津々に湖の二人を見ている。


「…私、ちょっと行って見てこようかしら。」


「あ、私も行きたいわ。」


「え?二人とも行くの?待って、私も行く!」


 マリーサと、シャルロッテまでもがそう言うので、エリナもあわててついて行くことにした。三人でカルロとグアダルーペの方へ向かうと、ちょうど後ろへ振り返ったところのグアダルーペが気がついて手を振ってくれた。エリナたちも手を振り返すと、雰囲気で気がついたのかすぐにカルロも振り返って手を振ってくれた。


「どうー?何か面白いものはあったー?」


 マリーサが二人に大声で尋ねると、グアダルーペが変てこな表情でこちらを見てくる。


「え?なに?」


「たぶん、妖精たちに遊ばれているよ。ほら?」


 一気に疲れた表情をして見せたグアダルーペに本日の釣果をみせてもらうと、ボックスの中には大量のガラクタが入っていた。なんというか、大型犬とかなら楽しく遊べそうなガラクタでいっぱいだ。


「あ~これは確かに。ふふ…遊ばれてそうね。」


 マリーサが笑うとグアダルーペが残念そうな顔になる。


「そうなんだよ、俺もカルロもずっとこんな調子。それに姿すら見せてくれないんだ。」


「あら、私たちは森で妖精さんにあって来たわよ。」


「ええ?!本当に?」


 グアダルーペはがっくりと肩を落として、道具を放り投げると近くの石に座りこんでしまった。


「ほら、タマラが言っていたでしょ?お友達のミリアちゃんにお花をもらってるって。そのお友達っていうのがなんと、森にいた妖精さんだったのよ!」


 落ち込んでしまった弟を元気づけようと、ちょっと大げさな身振り手振りで伝えるマリーサだったが、彼女が話し終えるかどうかくらいで、湖からばしゃっという水音がした。その場がいっせいに水音のした方を振り向く。


「…ねえ?いまミリアちゃんって言った?」


 高めの声が響き渡り、声の出所をたどる。すると目の前の湖の上に水色の服を着たミリアくらいの大きさの存在がふよふよと漂っていた。


 ――妖精だ!


 姿は先ほど森で出会った妖精の姿に似ているが色彩に水辺っぽさを感じる。エリナはすぐに問いに答えた。


「そう。さっき森でミリアちゃんに会ってきたの。私はエリナ、あなたは?」


「!あなたがエリナ?」


「そうだよ。」


 どうやらこの妖精さんは自分のことを知っているらしい。エリナの名前を確認した後、他のみんなの名前も順に確認していった。


「そうだったんだ!じゃあそこのカルロとグアダルーペ、こっちきて。」


 男性陣は、始めて見る妖精の姿にテンションが上がっていた。


「すげえ!妖精だ。しかも名前呼ばれた!」


「妖精!やっと会えた!」


 二人は妖精に会えた驚きを口々に発しながら、言われた通りに前に進み出た。二人の姿が鏡のように映しだされるほどに湖面へ近づいたところで、妖精はばしゃんと音を立てて水中に潜った。二人がきょろきょろと消えた妖精の姿を探していると、二、三秒して再び水面から顔をだして「ちょっと待っててね」とだけ言って、再び水中へと消えてしまった。


「なんだ?」


「?」


 直前まで興奮していた二人は、今は困惑した様子で立ち尽くしている。ポリポリと頭を掻きながら困っているカルロと、よく分からないという表情のまま言われたとおりに待っているグアダルーペ。その姿をエリナとマリーサ、シャルロッテの三人で後ろから見守る。


 静けさが続いて十数秒経ったころ、突如としてピチャン、という印象的な水音とともに


 ――!!


 湖の上にはこの世の物とは思えないほど美しい女性が姿を現していた。



20241015_修正

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