出会い~Meating~
言葉&手話で行われた長い入学式が終わり、みんな一斉に自分の教室へと向かう。
ちなみに、芸術科のクラスは障害によって分けられている。A組は視覚障害者、B組は聴覚障害者、C組は身体障害者と内部障害者、D組は知的障害者が集まっている。
僕のクラス、B組の生徒は僕を入れて20人。芸術の勉強をしたい聴覚障害者がこんなにいるとは思わなかった。
――――トントンッ
いきなり誰かに肩を叩かれた。後ろを向くと、綺麗な顔立ちをした男が立っている。
なるほど。さっきから女子たちが手話や筆談で「あの人かっこいい!」と騒いでいる訳が分かった。今、僕の肩を叩いたコイツのことか。
「つばき・しょうです。どうぞ宜しく。」
イケメン君が、手話で挨拶をしてくれた。さらに、紙に自分の名前を漢字で書いてくれた。ご丁寧にどうも。
紙には『椿翔』と漢字二文字で書かれている。小さな衝撃だった。未だかつて、名前を雰囲気がこんなに一致している人を僕は知らない。僕は名前負けしているから、このイケメンがちょっと、いやかなり羨ましい。
やっぱり、世の中不公平だ。そんなことを思いながら、軽く挨拶を返した。
初対面の挨拶は、お互いの名前と「宜しく」の一言を言った後、会話が続かないから苦手だ。それなのにこのイケメン、テンション高く会話を続けてきた。
「俺のことは好きに読んで! あ、俺は『龍』って呼んでいいかな。それじゃ普通すぎでつまらないって言うならあだ名にしようか? 何がいいかな・・・。『大宮』だから『大ちゃん』とか? それとも『龍ちゃん』? あ、『龍ちゃん』ってダチョウ倶楽部の『上島竜兵』じゃないからな~、なんちゃって。」
僕は苦笑いだったけど、会話が続かなくなるよりありがたかった。
ふざけたことを言っているのに、イケメンの手話はキレがあり、かっこいい。
名前も外見も手話もかっこよく、話も上手い『椿翔』はモテるだろうな、と確信した。
「『龍ちゃん』でも何でもいいよ。僕はイケオって呼ばせてもらうよ。イケてるオトコ、そのまんまだろ?」
実は、人にあだ名で呼ばれたり人をあだ名で呼んだりするのは初めてだ。いじめに遭い、人をあまり信じられない僕だけど、イケオは信じられると直感した。
「いいね~イケオ! 気に入ったよ。龍ちゃんもなかなかイケてるよ! さっそくだけど質問! 俺は写真家目指してるんだけど、龍ちゃんは? もしかして絵とか描いちゃう感じぃ~?」
イケオの『写真家』という言葉が頭に響いた。隠す必要はないので、僕は『プロの写真家になりたい訳じゃないけど、この世で一番美しいものを写真に残すこと』という夢を話した。『障害者はどんなに頑張ったってプロにはなれない』という考えは言わなかった。言える訳がなかった。
僕の夢を聞いたイケオはこう言った。
「そういうのもアリだよ。プロなんて目指さなくたっていいんだから。俺は龍ちゃんの夢を応援する。目指すものが違っても、同じ写真仲間! これから一緒に頑張ろうぜ。」
イケオの言葉がどんなに嬉しかったか。プロを目指していないのにこの高校に入学したことにちょっとした罪悪感を感じていた僕は、『プロなんて目指さなくてもいい』というイケオの言葉で、心が救われた気分だった。