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第六十八話 意味はあるのか

 イレースのものと思われる粘土板は、エタたちが到着してほどなくして変動が収まり、救助活動が開始して半日ほどで見つかった。

 イレースが冒険者のたしなみとして所持していた日記用の粘土板だった。

 ギルドが所有する療養施設で体を休めていたエタは持ち運ばれたそれを読んだ。読んでしまった。

 知らなかったイレースのことについて知ることができた。知ってしまった。

 実は借金のことが発覚する少し前にエタは里帰りしたイレースと顔を合わせていた。

 その時は悩みも何もない様子だった。

 まさか、こんな恐怖を抱えていたなんて気づきもしなかった。

「姉ちゃん……ごめんなさい。あの時、僕が声をかけてればこんなことにはならなかったかもしれないのに……ごめんなさい」

 イレースはもういない。

 魔人になり果てた。

 誰が悪かったのだろうか。

 エタならばこう答えるだろう。僕のせいだ、と。


 エタはひとしきりすすり泣いた後、部屋の外に誰かいることに気づいた。

「あの、誰かいるんですか?」

 観念したように部屋に入ってきたのはミミエル、シャルラ、ターハ、ラバサルの四人だった。

 皆、昨日の表情とは正反対の沈んだ顔をしていた。

 だがエタはそれ以上にひどい顔をしており、四人は何も言えなかった。

「皆さんに、お願いがあります」

 陽炎のようなエタの声。

 消え入りそうな、遠くにあるような、でも耳元で囁いているような、そんな声。

「擬態の魔人を殺すために力を貸してくれませんか?」

 四人に驚きはなかった。そう言うだろう、そんな気がしていた。それがどれほど困難なのか、エタのほうがよほどわかっていたとしても。

 返答に窮していたが、最初に口を開いたのはミミエルだった。普段と同じように人を小馬鹿にした声と表情だった。

「別に殺さなくてもよくない?」

「ちょ、ちょっと! 何言ってるのよ! 魔人が生きていれば被害が出るってラバサルさんも言ってたじゃない!」

「それは魔人次第じゃない? あの擬態の魔人は人に擬態する魔人でしょ? なら、人間としての規則は守るはずでしょう? 違う?」

「より正確には普段は冒険者にしか擬態できない魔人だと思う。擬態の掟を持つなら、ある意味人間以上に冒険者であり続けようとするはず」

 エタのミミエルに賛同する言葉に苦々し気に短く反論したのはターハだ。

「けど、ペイリシュは殺しただろ」

「いや、そいつぁ冒険者憲章には報復を肯定する記述が盛り込まれているからだ。こっちから何もしなきゃ、何もしねぇ。あれはそういう生きもんだ」

 ラバサルの正論に息をのんだシャルラは遅まきながら二人の意図を察した。

 エタが擬態の魔人を殺すことを諦めさせようとしているのだ。

「そうよ。だからあの魔人は放置しても……」

「それじゃあ姉ちゃんの思いはどうなるんですか!?」

 エタの心からの叫びに四人は黙る。

「怖いのに必死で我慢して、努力して、それなのに好きだと思ってた人に騙されて、挙句魔人になってこの大地を彷徨うだなんて……あんまりじゃないですか!」

 叫び終わった後、エタは盛大にむせた。まだ、体が本調子ではないのだ。駆け寄ったミミエルとシャルラが背中をさする。

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