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第五十一話 光輝

 搾取の魔人に掴みかかられながらもミミエルが叫ぶ。

「エタ! そいつをどうにかして砕いて!」

「む、無駄だあ! それは砕けない粘土板を作る掟を持った職人が作った粘土板だ! どんなことをしたって砕けるわけがねえ!」

 高らかに、自らの勝利を確信している魔人は嘲笑う。

 ミミエルを助けるためにターハとラバサルも駆けつけるが、魔人は再び力を取り戻しつつあるのか蔓を振り回して近づけさせない。

「ひ、ひ。お前、いい体してるな。いい売り物になりそうだ」

 品定めするようなねっとりとした視線がミミエルを舐めまわす。

 露骨な嫌悪の表情を向けたミミエルは魔人に向かって唾を吹きかける。あるいは、それは怯えている自分を隠すための強がりだったのかもしれない。

 そしてその態度は魔人の癇に障ったらしい。

「きょ、教育が必要だあなあ」

 魔人があいている方の腕を振りかぶる。殴られることに備え、ミミエルが身を固めた瞬間、荘厳な光が洞窟を埋め尽くした。


「そうなんですね。アトラハシス様。これを僕に託してくださったのは、このためなんですね」

 エタは万感の思いと共に、アトラハシスに感謝を述べた。かつてアトラハシスより賜った光輝(メラム)を纏った掟。

 圧倒されるメラムが輝き、誰もが清らかな水に覆われたような穏やかな心地になった。伝え聞くに、メラムは神々によって異なるという。嵐を司るエンリル神ならば風のように、太陽を司るシャマシュ神ならば日の光のように。そして淡水を司るエンキならば清らかな水のように。

 どうやらアトラハシスはエンキ神からこの掟を賜ったようだった。

 そしてついに、掟の本体が姿を現した。

 エタにはどんな材質なのか見当もつかないが、美しく輝く平べったい金属の刃先が現れた。そして持ち手に使われている樹木も見るだけで滑らかだと分かるほどきめ細かい。

 両手で突く石を切削加工する道具の一種、突きノミと呼ばれる工具だった。

 そして、この突きノミに秘められた掟は。


 粘土板を砕く掟。


 まさに今この時のために用意されたような掟だ。いかにしても砕けない粘土板であれ、神より賜りし突きノミに砕けないはずはない。

 もちろんそんなことを魔人が知るはずもないが、そのメラムを見て危険なものでないと判断するはずがない。ミミエルを放り捨て、エタに向かう。

 だが、皮肉なことに自らミミエルに近寄ったせいでエタともかなり距離が離れていた。

 突きノミを振るうべく、持ち手を掴む。

 そして。


 エタの視界は暗転した。


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