表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/314

第四十六話 異形

 打ちひしがれたのか、ハマームはがくりと膝をついた。

 その体躯が小さく見えるほど、うなだれる。いっせいに部下たちからの視線が集中する。だが、彼は突然意味不明な独り言をつぶやき始めた。

「そうだ。あんたの言う通りだ。ここは俺の迷宮だ。俺のものだ。俺が頂点に立つんだ。他の誰にも渡さない」

「ちょっと、ハマーム? どうしたの?」

 異様なハマームに不気味さを感じたミミエルが声をかけるが、まるで聞こえていない。

「俺は奪う側だ。奪われるわけにはいかねえ。あんなみじめな生活はごめんだ。絶対に……そのためなら、何でもしていい」

 エタはふと、アトラハシスから言われた言葉を思い出した。

『迷宮に魅入られてはならない』

 あれはエタに対する警告だと思っていた。

 しかし。

 エタの周囲にいる人々への警告だったのではないか? エタの脳内にけたたましく警告音が鳴る。

「だめだ! ハマームさん! その声に耳を傾けちゃーーーーー」

 エタの警告は、少し遅かった。

 ぞわりと肌が泡立つ。

 それは地下、迷宮の核がある場所から感じられた。そして洞窟内に黒い光があふれ出す。

「な、なにこれ? もしかして、ニラム?」

 ニラムとは神々から発せられる畏怖の光。真の神から発せられたそれらは只人ならば気絶してしまうほどらしい。

 迷宮の核から発せられたためか、それほどの畏怖は感じないものの、それでも震えて倒れそうになる。そしてニラムはハマームに殺到した。

「そうだ。そうだ! 俺が、おるえぐああああああ!」

 言葉が崩れる。次にハマームの体が崩れる。

 迷宮からの声に耳を傾け、その心を明け渡すと魔人になり果てる。

 目の前にいるものはもう、ハマームではなかった。


 ニラムが晴れたその先に、明らかに人間ではない生き物がいた。

 頭と腕は蟻のように変貌し、頭部には蟻の触角の代わりに神に連なるものの証である角、目の前の魔人の場合山羊のようにねじれた角が生えていた。そして胴体には衣服のように樹木が巻き付いており、蔓が蜘蛛の手足のように蠢いていた。

 それ以上にエタが気になったのは果実のように蔓から成っている何かだ。

(神印? いや、顔……魔人になったハマームの顔? 顔が彫られた……丸い板? なんだあれ?)

 もしもここに数千年ほど後の時代の人間なら丸い板は通貨ではないかと推察できただろう。

 だがこの場の人間には不可能だ。

 なぜならこの時代には、この世界にはまだ通貨という概念がなかったのである。この世界の都市国家群では粘土板に記された数字で決済し、地球に記されたメソポタミア地域では金属の重量で価値を決めており、通貨そのものに価値があったわけではない。

 この世ならざる異変を顕現させる存在。

 故に、魔人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ