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第四十一話 空白

 拮抗する戦況。

 じりじりと胸を焦がす焦燥。

 しかしタンポポの綿毛がどこに飛ぶかなど誰にもわからないように、決して予期しえない不運は存在する。

 ミミエルの体がバランスを崩す。

 たまたま地面にあった蟻の足の残骸を踏んでしまったのだ。おそらくミミエルは不規則な大白蟻の動き、女王蟻の動き、すべてを見切っていた。

 だが、全く動いていないものまで意識することは不可能だったのだ。それでも素早く空中で態勢を整え、衝撃すらなく着地した。

 しかしそのわずかな時間は今まで間一髪の攻防を繰り返して成り立っていた戦闘では致命的な隙だった。

 女王蟻が大顎をばっくりと開けてミミエルに向ける。

 ぎりぎりで二つの槌を出現させたミミエルはつっかえ棒のように女王蟻の攻撃を防いだ。当然ながら力では勝負にならない。押し切られるよりも先にその場を離れることを選んだ。

 だがそれは苦渋の決断だった。

『ミミエル! 武器が!』

 蟻の牙を防いだのはよかったものの、武器と牙がかみ合ってしまい、二つの大槌を捨てざるを得なかった。ご丁寧に女王蟻は二つの武器を遠くへと放り投げた。

 携帯粘土板に掟を収納するには掟が近くにないといけない。もっと時間がたてば掟が溶けるように消えて自動的に携帯粘土板に収納されるが、そうなるとしばらく掟は使用できなくなる。

『心配いらないわ。それより何とかして蟻の群れを捌きなさい』

 黒曜石のナイフを構え、冷静に振る舞っているが、かなりの窮地だ。

 さっき武器を手に持ってしまったせいで踊りの掟の効果もしばらく使えない。つまり今ミミエルは掟なしで女王蟻と戦わなければならない。

(いくらなんでも無理だ)

 ターハとラバサルは混乱する大白蟻の群れに阻まれてうまく援護できない。

(どうする? いや、どうするかじゃない。こういう時のために僕がいるんだ!)

 洞窟内を見回す。何か、戦いの手助けになるものはないか?

 そして気づいた。

(……? あの場所。誰もいない?)

 これほど大白蟻が動き回っているが、洞窟の奥の一角だけぽっかりと誰もいない場所があった。

 何があるかは暗くてよく見えない。そして、なんとなくだが、女王蟻はそこから遠ざかるように戦っていたようにも見える。

 逆に言えば。

(あの場所に近づかれたくない? あの場所に何か、女王蟻にとって大事なものがある?)

 不意に、エタはそこに何があるのか。そしてそれをどう利用するべきかを閃いた。

 あるいはそれは、悪霊(アサグ)のささやきだったのかもしれない。

 ラバサルから預かった鞄にできる限り石を詰める。それから不自然に誰もいない場所に向かって全力で走る。

 三人も、女王蟻でさえも気づかない。

 走る。

 汗が噴き出す。

 目的地までの中間地点。

 仲間たちはどんどん追い詰められている。ここだ。そう判断して全力で叫んだ。

「女王蟻ぃ! こっちだ!」

 洞窟内のほとんど全員の視線が集中する。ミミエルも、ラバサルも、ターハも訳が分かっていなかった。しかし女王蟻だけは劇的な反応を見せた。

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