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第二十六話 悪事は上手くいかぬ

 時折落ち葉の舞う森の一角、わずかに水の溜まった泉に蟻が一匹倒れており、そこにシャルラをはじめとするニスキツルの社員が集まっていた。水を求めてやってきた蟻を待ち伏せていたのだろう。

 しかし浮かれる様子は全くなく、没個性的な兵士装束に身を包んだ社員たちは淡々と次の獲物を探していた。

 そこに一人だけエレシュキガルの神印や、羽飾りのある外套など、目立つ衣装を身に着けたシャルラはエタを見て顔をほころばせた。

「あ、エタ。お疲れ様。この大白蟻は毒を使って殺害したわよ」

 ひらひらと手を振るシャルラの視線はエタよりもむしろ灰の巨人の冒険者に移動していた。

「一矢で仕留めたんだ。すごいね」

 大白蟻の背中に一本の矢が刺さっていた。本来ならこのくらいではひるみすらしないだろうが、蟻は完全に動きを止めていた。

「まあね。お父さんにも鍛えられたし。動きは鈍いから当てることなら難しくないわよ」

 シャルラは大白蟻の死体を検分しているエタの耳元にそっと近づき囁いた。

(この毒は死に至る毒じゃないわ。もう少し時間がたてばまた動き出すから、それまでに何とかしてね)

 エタはどうしても蟻を捕獲する必要があったが、その障害は灰の巨人の目だった。やはり灰の巨人も迷宮を攻略されることを警戒しているらしく、他のギルドや企業に対して監視を緩めていなかった。

 だが、エタはそれほど警戒されていない。しかも死体の処理を担当しているため、毒で動けなくなった蟻を毒で死亡したと偽るくらいなら可能だった。

 これでまた一つ計画が進んだ。

 エタはシャルラに対して頷かなかったが、目線だけで感謝の意を伝えた。それを受け取ったシャルラは何もなかったのかのように会話を続けた。

「大白蟻はずいぶん楽に狩れるけど、大黒蟻のほうは簡単じゃないのよね?」

「うん。凶暴で皮も堅いから簡単には仕留められないよ。それに仲間を呼び寄せるらしいから気を付けたほうがいいよ」

「仲間を呼ぶって叫んだりするの?」

「いや、詳しくはわからないけど死体に集まってくるらしいんだ。だから大黒蟻は見つけても攻撃しない。もしも攻撃してしまったらすぐにその場を離れるのが定石らしいよ」

「こういう集団で行動する魔物って厄介よね。だからこの迷宮が攻略できなかったんでしょうけど」

「まあ今回は攻略が目的じゃなくて大白蟻の討伐が目的だからね。慎重に戦えば危なくないはずだよ」

「そうね。まず無事に仕事を終えましょう」

 エタに限った話ではないのだが、とにかく全員白々しいセリフをいけしゃあしゃあと述べることに対する抵抗が全くなかった。

 人間は追い詰められた時にこそ意外な才能が発見されるとは言うが、エタとシャルラ以外、数日前にあったばかりの人間が連携してこれほどまでに見事な演技を見せているのは神の祝福があったとしか思えなかった。

 あるいは、灰の巨人が神から見放されつつあったのかもしれない。


 だがすべてがエタの予想通りにはいかなかった。


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