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第二十三話 帳簿

 ミミエルの鮮やかな手並みに歓声が上がり、ミミエルもそれに応えて笑顔を向けていた。もちろん、彼女の内心を推し量れるものなどいなかっただろう。

 そこにこちらも大白蟻を仕留めたらしきターハが現れた。

「げ!? 三匹も仕留めたのかよ!」

「ああ、おばさんもご苦労様。ちゃあんと一匹仕留めたみたいだけど……」

 ターハが片手に棍棒を持ち、もう片方の手で引きずっていた大白蟻は足が妙な方向に折れていたり、首がめちゃくちゃな角度に曲がっており、確実に絶命していた。

「はあ。これだから素人は。いい? この巨大蟻の弱点は喉の下あたりよ。頭を潰されても動きを止めないけど、そこを確実に潰せば動かなくなるわ。上からよりも下から攻撃するほうがいいんじゃないかしら? こいつらの体の上側の皮は分厚いけど、下側は薄いのよ」

 馬鹿にしている口調ではあったが経験に基づいた忠告だった。もちろんターハもそれをわかったうえで返答する。

「ああはいはい。あたしゃ、そういう細かいのは苦手なんだよ。とりあえず動かくなるまでぶっ叩けばいいだろ?」

 大白蟻の死骸を軽々と投げ飛ばす。きらりと銀色の腕輪が光っていた。

 これこそターハが授かった掟。持ち主に怪力を授ける銀の腕輪。

 そんなターハを見てミミエルは首を振りながら呆れていた。

「見た目からして頭が緩そうなおばさんだと思ってたけど、脳に筋肉が詰まっているとは思わなかったわ。ああ、これ、さっさと片づけておいて」

 後半の台詞はエタをはじめとする死体処理班に向けられたものだった。

 当然と言えば当然だが、人目のある所でミミエルはエタを冷淡に扱っていた。二人でいるときもそういう態度ではあるのだが、少しばかり口調が優しくなる……ような気がしていた。

 ミミエルの言葉に従い用意された粘土板に討伐した数と、大白蟻の損傷状況について記録していく。

 ちなみにエタの用意した設定に従えば、大白蟻の腹部を傷つけると高値で売れる内臓を壊してしまう可能性があるが、内臓を欲しがっていると悟られるのを恐れたハマームは一部の人間以外に真実を伝えていないらしい。

 おかげでほとんどの冒険者や社員は気にせず攻撃し、損傷状況に応じて運搬や解体の手順を分け、余計な手間をかけることになってしまっていた。もっとも、この手の記録、統計、作業の振り分けなどは書記官を志しているエタには得意分野であり、いつの間にか死体処理班のまとめ役になっていたラバサルの計らいによって指示を出す立場に納まり、図らずも灰の巨人は効率的に作業を進めることができていた。

 なお、こっそりと死体を埋めたり、燃やしたりすることも行っていた。大黒蟻を引き寄せないようにするという名目だったが、実際には死体を大黒蟻に捕食させないためだった。

 良くも悪くも冒険者らしい冒険者の思考をしていたハマームは戦いの技芸や指揮については熟達していたが、その後の処理や会計という仕事を軽視していた。

 それがエタの計画を順調に進める追い風になっていたのは皮肉とも言えた。エタはほぼ完全に大白蟻の討伐数や、その進行状況を把握できていた。

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