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第二十一話 狩りの始まり

 ターハをしげしげと眺めていたラバサルはやがてぽつりとつぶやいた。

「人に歴史あり、か」

「まあな。あんたはどうだ? 今裏切れば大金が手に入るんじゃないか? ニスキツルだっけか? 企業でも買ってくれるはずじゃないか?」

「裏切らねえよ。おめえも気づいてるかもしんねえが、わしの右手の小指は不自由だ。昔冒険中に負傷したせいだ。死にかけたんだが、掟を捧げたおかげで生き永らえた」

「掟を捧げて奇跡を得るってやつ? マジであるんだ」

 神々から授かった掟はよほどのことがない限り減ることはない。例えば重大な犯罪に加担したとか、自らの欲望のために誰かをおおいに傷つけたときなど、掟が神々から没収されることもある。

 こうなった人間は徹底的な侮蔑の対象になる。なにしろ神から見放された人間だ。

 神々の忠実な僕である都市国家の市民としては恥ずべきことである。

 だがそれとは対照的に掟を捧げて九死に一生を得ることがまれにあるらしい。これは神に認められた人間であり、敬意の対象となる。

「まあな。だが死んでおくべきだったかもしんねえ」

「……何があったんだ?」

「尻ぬぐいさ。ギルドのお偉いさんの息子の失敗で死にかけたってのに、いつの間にやらわしのせいになってた。ろくすっぽ調べもしねえで全部罪を被せられちまった」

 ラバサルは淡々と語っていた。怒りも悲しみも過去に置き去りにしたのだろう。

「あんたはギルドに復讐したいのかい?」

「そこまでの気概はねえ。だが、ギルドに虐げられる顔見知りを放ってはおけねえ。ついでに偉そうにしてる連中に一泡吹かせられるんなら万々歳だ」

 にやりと再び笑顔になったラバサルにつられ、ターハも悪い笑みを返した。




 二日後、灰の巨人は二つのギルドと傭兵派遣企業ニスキツルに協力を要請し、大白蟻の大討伐に乗り出した。

 二つのギルドは弱小のギルドで、死骸の運搬や解体などを手伝わせるつもりらしかった。

 主力となるのは灰の巨人の戦闘員とニスキツルの傭兵たちだった。そしてニスキツルの社長であるリムズはまるで初めてエタと会ったかのように声をかけてきた。

「やあ、初めまして。エタリッツ君だったかな。こんなところで会えると思わなかったよ」

「はい。僕も意外でした」

 エタ自身も驚くほど白々しいセリフがすらすらと口から出ていた。

「同じ仕事になったのも何かの縁だ。これからよろしく頼むよ」

「ええ。よろしくお願いします」

 すうっと、リムズはエタに耳打ちした。

(我々への依頼はあくまでも蟻の駆除。つまり迷宮の攻略には関われない。これも計算のうちかな?)

 過大評価である。この状況を完全に想定していたわけではない。

 だがそれをわざわざ伝えることはせず肩をすくめただけだった。

 それをどう思ったのか、ふっと皮肉な笑みを浮かべてリムズは去っていった。次にすっとシャルラが近づいてきた。

「エタ。私はあくまでも社員として参加するからあなたを手伝えないけどその範囲内ならあなたの力になるわ」

「ありがとうシャルラ。頼りにしてるよ」

 微笑みながら父親の後を追っていった。

 ようやくここまでこれた。すべてを出し抜き、騙してでもこの迷宮を踏破する。決意を新たにして前を向くと、先頭に立っているハマームが号令をかけていた。


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