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第十三話 潜入捜査

 この迷宮探索ではっきりしたのはどうしようもないほど灰の巨人が利益を貪っているという事実だった。

 例えば原則として冒険者が迷宮を散策する場合、等級ごとに最低賃金が保証されているのだが、食事代や石斧などの道具の貸し出し費用を賃金から差っ引くなど、違法すれすれの行為をして可能な限り人件費を抑えていた。

 エタとしてはむしろよくここまで徹底できるものだと感心するほどだった。

 だが一方でエタの知りたいことはまだ知れていない。

(やっぱり、せめて一人。協力者がいないと厳しいかな)

 エタは自分が臆病だと自覚しているし、それは事実である。だからこそ冷静に、冷徹に策を巡らせていた。




 この地域での住居と言えば煉瓦造りだが、このまだらの森近辺では事情が違う。

 まだらの森の樹木は迷宮の核の影響でとてつもない速度で成長するため、それこそ余るほど木材を伐採できる。

 簡単な筏を作って川下に木材を運搬して利益を得ているが、それでも余ってしまう木材はもっぱら集落の住居に利用されていた。

 むろんエタの身分で上等な家屋などあてがわれるはずもない。夕食として出されたバッピル(エール酵母で発酵させたビールパン)をもそもそと食べた後、適当に作られた木造小屋の中、大人数で雑魚寝させられた。


 そして翌日。

 朝特有のひんやりとした空気に目が覚める。他の人たちは疲れ切っているせいか眠っている。

 差し込む日差しからまだ起床時間ではないはずだったが、二度寝する気になれなかったエタは少し歩くことにした。この集落は獣の侵入を防ぐためか、柵に覆われている。……あるいは内部の奴隷に簡単に逃げられないぞ、という心理的な脅しの効果もあるのかもしれない。ぐるりと柵の内側を歩く。

 昨日は余裕がなかったのでわからなかったが、遠くに見えるまだらの森から緑のにおいが漂っている気がする。

 今日で借金取りが来てから九日。残り十一日。それまでにこのまだらの森を攻略するか、それが不可能なら迅速に別の迷宮を攻略しなければならない。

 胸を締め付けられるような不安を無視するように首を振ると、柵の外側から歩いてきたミミエルとばったり出会った。

「うげ」

 露骨に嫌そうな声と顔をされるとさすがにエタも戸惑ってしまう。二の句を告げずにいるとさらなる罵倒が飛んできた。

「あんたさあ。馬鹿じゃないの? 魔物が目の前に現れただけで気絶するとか貧弱過ぎない?」

「え……いや、あれはどっちかっていうと君が大白蟻の頭を潰したからで……」

「はあ!? あたしのせいだって言うの!?」

「い、いや、君には感謝してるよ! 君がいなかったら……」

「ああはいはい! 感謝なんかいらないわよ。どうせすぐ死ぬでしょ、あんたみたいなやつ。今のうちに家にでも帰れば?」

「それは、まだできない」

「あっそ。せいぜいあたしに迷惑かけないでよね」

 そしてそのまましっかりとした造りの、本当の意味で灰の巨人に所属していると言える、ハマーム直下の冒険者たちが暮らす木造小屋に歩いて行った。だが、エタは彼女が隠すように手に持っていたものが気になった。

(野草? クローバーやオオバコ? いや、そもそもどうして彼女は外にいたんだろうか?)

 何かが気になったエタはひっそりと外に出た。

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