第七話 白い神殿
白色神殿。
ウルクのイシュタル神殿の別称であり、その名の通り純白の建物だ。
ウルクの真の主であるイシュタル神のためにはるか昔に建造され、また、数百年先もそびえたつことを誰一人疑わないであろう美麗な姿を維持し続けている。
あるものは朝焼けに白く輝く姿が最も美しいと述べ、またある者は夕暮れに赤く照らされた姿が最もふさわしいと断言する。
敬虔な信者からはイシュタル神の象徴でもある金星を眺められる夜に神々しい光を放っていたと噂されることもある。
白色神殿はウルクで一、二を争うほど有名な建物だろう。
だからこそウルク市民なら一度と言わず、数十度来ることもある。
とはいえ神殿長直々の呼び出しを経験したことがあるはずはなかった。
参拝客の横を通り過ぎ、聖娼に案内され、この神殿に務めている人間以外立ち入りが禁止されている場所の内部に入る。
ウルクの都市神であるイシュタル神のおひざ元となれば、ウルクの心臓にも等しい場所だ。必然的に緊張し、言葉少なになる。ただ、ミミエルだけは別段気にした風もなく、自然体だった。
通い詰めだった場所であるここは気負うような場所ではないのだろう。
窓から明かりが差し込み、夏だというのに穏やかな風が流れる煉瓦に囲まれた部屋に案内される。
そこで、ミミエルに近づく影が一つ。
「まあまあ! ミミエルちゃん! 久しぶりねえ!」
親し気に近づいてきた恰幅の良い中年の女性はミミエルが行動するよりも早く抱きしめた。
「お久しぶりです、ラキア神殿長」
ミミエルがラキアと呼んだ彼女はイシュタル神の信徒らしく、華美な宝石に、やや露出の多い服を身に着けている。
ただ、なんとも……。
「ちょっと似合って無くねえか……?」
ターハがエタに耳打ちする。
失礼ながらエタも同感だった。
ラキアは若かりし頃なら美人だったと想像できるが、今となってはいささか無理がある服装をしている気がしてならない。
一見すると細身のミミエルと比べると、なおさらだった。
「わしはこういうのも嫌いじゃないがな」
「おっさんよう……いや、年取るとわかるもんなのか……?」
ターハが首をひねりながら、ラキアとラバサルを交互に見ていた。
そのラキアがぱちりと目を見開き、エタたち三人を見てにっこり微笑んだ。
「あなたたちが杉取引企業シュメールの皆さんね。お噂はかねがね聞いているわ」
人好きのする笑顔に他人を安心させる声。
神殿のまとめ役になっているのも頷ける人柄だった。
「初めまして。エタリッツと申します」
ラバサル、ターハが順に自己紹介していく。
「うんうん。ミミエルちゃんがギルドに行ってからすっかり連絡をくれなくて寂しかったけど……仲良くやってくれているようでうれしいわ」
「その、便りの一つも出さずにすみません」
「いいのいいの! 元気でいてくれればおばちゃんは一番なのよ!」
ミミエルは押しの強いラキアにすっかりたじたじな様子だった。
「ラキア様。そろそろ本題に……」
そばにいた付き人らしき女性に声をかけられ、ラキアはそっとミミエルから離れ、真面目な顔つきになった。