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第十話 オオカミの瞳

 エタは泣いていた。

 具体的な理由は覚えていない。ただ悔しかったという感情だけが心の底に残っている。そういう時はたいていどこかに隠れて泣いていた。

 そんな自分をいつも探しに来てくれたのは姉だった。

『エタ。見―つけた。今日はどうしたの?』

 夜の闇を溶かし込んだような黒髪と瞳がエタを見つめていた。それになんと答えたのかも、エタは覚えていない。

『そっかー。でも私はエタがうらやましいよ。私ってほら、お父さんやお母さんと違って頭はよくないから。エタはね、二人から愛情を受け取って知恵を受け継いだのよ』

 そう言ってエタの頭をイレースはわしわしとなでつけた。

 いつも姉はエタを励ましてくれた。それが嬉しかったし、こんな人が姉で誇らしかった。

『さあ。お姉ちゃんと一緒に立って帰ろう』

 差し出された姉の手を掴む。そして。




「ボケっとしてんじゃないわよ! さっさと起きなさい!」

 甲高い声と容赦の無い蹴りに叩き起こされたエタはようやく正気に戻り、ぼんやりと上を見た。

「起きた!? 魔物を見ただけで気絶するとか貧弱過ぎない!? じゃあさっさと作業に戻りなさい!」

 見上げていたのはミミエルと名乗った少女だった。まだらの森を攻略しているギルド、灰の巨人の一員だったはずだ。彼女の後方にはギルド所属の冒険者らしき男が鞭を構えていたが、エタが起き上がったのを見てつまらなそうに去っていった。

 もしもこのまま眠っていたら鞭で打たれたかもしれない。

 まだぼんやりとしているエタをミミエルはにらんでいた。

 長い黒髪を結い上げ、上に膨らませているが、それ以上に象徴的なのはその瞳だ。琥珀色というのだろうか。獲物を狙うオオカミのように力強かった。

 端が房状になった外套を羽織っており、腰から尻尾のような飾りが飛び出ている。一見すると獣が二足歩行しているような野性味のある格好だったが、そのマントの中身の服装はエタの目には少々刺激的だった。

 上半身は一枚の布をピンでとめただけであり、スカートの丈もかなり短い。大事なところが見えてしまわないか不安になっていた。

 ただ、金星をあしらったイシュタル神の神印が見えていることから美と愛を司るイシュタル神の信徒なのだろう。それならあの格好も理解できなくはない。偏見な気もしていたが。

 さらに言えば不埒な行動に出る男もいないだろう。エタの数歩先にいた大白蟻の頭を叩き潰したのは彼女なのだから。

「さっさと歩きなさい。役に立たないやつを置いておくほど余裕はないのよ」

 冷たい瞳をそらして彼女は先頭のギルド長直下の冒険者たちがいる集団に向かっていった。

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