解説 イシュタル
今回解説するのはおそらく日本でもっとも有名なメソポタミアの神である、イシュタル神です。シュメル語ではイナンナと呼び、天の女主人という意味です。
愛と豊穣、戦争と破壊など多種多様かつ矛盾しているような性質をつかさどるメソポタミア神話きってのトラブルメーカーで、同時に女主人公とも呼べる立場です。
現代でも比較的知名度の高い女神ですが、当時からも人気の高かった女神だったようです。もともとは地方都市の守護神だったようですがいつのまにかウルクの都市神になっていることからも彼女の人気がわかります。
エピフ山ぶっ壊し、冥界下り、ドゥムジ神との結婚などとにかくエピソードに事欠かない彼女ですが、個人的に気に入っているのはエンキ神が神々の仕事を決めるときのエピソードです。
仕事を欲しがったイシュタルがエンキに仕事をねだると、エンキ神はこう言います。
「女性らしさ、優雅な衣装と女性の魅力、女性らしい話術。戦場で吉兆と凶兆を占う力。まっすぐな糸をこんがらがせ、こんがらがった糸をまっすぐにする。滅ぼさなくてもいいものを滅ぼさせ、創造しなくともよいものを創造させる。聖歌用の太鼓を家にしまわせる」
はっきり言って謎チョイスです。
いやそれ矛盾してるよね? と、エンキ神に問いただしたくなりますがイシュタル神は満足します。
おそらくはイシュタル神が二面性を備えた女神であることを強調したかったのでしょう。
もしも花や蝶ばかりをイシュタル神が与えられていればいかにも貞淑な女神になったことでしょう。
そして、そうではないところにイシュタル神の魅力があるのでしょう。