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迷宮攻略企業シュメール  作者: 秋葉夕雲
第二章 岩山の試練
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第二十五話 共食い

 エタが告げた推測に三人は首を傾げた。

「迷宮が二つ重なるって……そんなことあるんですか?」

「僕もエドゥッパで聞いたことがあるだけだけど……戦士の岩山みたいに範囲が広がる迷宮にはそういう事例があるらしい」

 迷宮は成長する。

 成長の方法はそれぞれだが、戦士の岩山は広がることで成長するのだろう。そして広がり続けた結果、いつの間にか迷宮が重なっていたのだろう。

「くそ。この迷宮は広いからな。周辺の迷宮なんて全部調べられねえよな」

「で、でもそれならどうして迷宮が重なることが知られていないんですか?」

「普通は起こらないんだ。迷宮は共食いするから」

 迷宮と共食い。

 相容れないようでいて、どこか腑に落ちるような不気味な食い合わせをした言葉だった。

「迷宮の魔物が戦ったり、天変地異が起こったり、やり方はいろいろだけどお互いの領地がぶつかった迷宮は共食いして勝ったほうがより成長する。そういう法則なんだ」

「迷宮は生き物みたいなものだって聞いてましたけど……思ったよりも生々しいですね。でも、どうしてここでは共食いが起こらなかったんでしょうか」

「はっきりとはわからないけどアサグがいる迷宮の掟が隠れるとか、退ける、とかそういう掟なのかもしれない。だから共食いに発展しなかった」

「……もしかしてトラゾスが占拠している場所で石の戦士に襲われないのは……」

「そこの土地に迷宮があったからだろうね。アサグに襲われない工夫か何かをしているんだと思う」

 全員が肌をぞわりと震える感触を味わった。

 迷宮をもって迷宮を制するという発想は尋常ではない。

「これも推測になるけど迷宮の核を持ち運べば、石の戦士に襲われにくいんだろうね。トラゾスがこの迷宮を探索できるのはそれが理由ならいろいろ説明がつく。もちろん、限界はあるだろうけど」

 エタがたどり着いた真相の奥にある真実にいち早く気づいたのはディスカールだった。

「じ、じゃあアサグの迷宮の核を、せ、戦士の岩山の迷宮の核に近づければ、か、隠れきれずに、と、共食いを始める……?」

「くそが! じゃあなんだあ!? 石の戦士が囮に引っかからなくなったのはトラゾスのせいなのかよ!?」

 他の迷宮の存在に気づいた戦士の岩山の核が石の戦士を強引に呼び戻したと考えれば石の戦士の奇妙な行動にもつじつまが合う。

 もっとも、可能であることと実際にやるかどうかは話が別だ。今回の探索の失敗でどのくらいの被害が出るかはまだわからないが、少なくない死者が出るだろう。

 トラゾスがウルクなどの都市国家群から冷遇されているはずだからとはいえそこまで冷酷になれるのだろうか。

「そんなこと……許されませんよ! このままでいいんですか!?」

「みんな落ち着いて。今は戦士の岩山から脱出することだけを考えよう」

「あ、そうですね。すいません熱くなりました」

 そうは言ったもののこの件をトラゾスに追及するのは難しいだろうとエタは考えていた。

 なぜならこれはエタの推測に過ぎない。実際に目撃者がいるわけではない。

 そもそも都市国家に属していないトラゾスは法の追及が及びにくい。

 もし追及するとすればどこかに隠し持っているトラゾスの迷宮の核を見つけることだろう。この場合、ウルク市民が未発見の迷宮を()()()()()()()という扱いになるはずなので強引に接収する根拠になる。

 もちろんトラゾスも馬鹿じゃないので必死で迷宮の核を隠すはずだ。

(最低限の情報はザムグに渡した。最悪の場合僕が死んでも、誰かが気づいてくれるはず)

 エタは自分が下山できる可能性は低いと予想していた。

 この場で一番足手まといなのは自分だ。覚悟はしていないといけない。

(ラバサルさんも言っていた。社長は常に代わりの社員を用意していないといけない。それには僕自身も含まれる)

 誰にも言っていないことだが、エタは自分自身の引継ぎのための資料を用意していた。最悪の事態の備えをすでに済ませていたのだ。

(姉ちゃんを葬れないのは無念だけど……シュメールは僕のものじゃない。みんなのための居場所になるはずだ)

 最善ではないが、次善の未来に思いを馳せ、力の入らない体を引きずりながらなんとか前に進む。

 それでもやはり歩みは遅い。

 霧はどんどん晴れている。この霧はアサグが起こしたものだろう。アサグがいる迷宮の核が離れている証明でもある。

 そして霧が晴れて……エタはそれと目が合った。

 六本の足とピンと伸びる触角。よく知る害虫、イナゴ。

 ただし色は灰黒色でところどころ白っぽいまだらになっている。大きさはオオカミほど。

 石の戦士のうちの一体。

「『イナゴ船』の、分離体……」

 もっとも会いたくない石の戦士がそこにいた。


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