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迷宮攻略企業シュメール  作者: 秋葉夕雲
第二章 岩山の試練
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第十七話 トンボ

 戦士の岩山はウルクの西北西にある。

 道としてはウルクとウルを結ぶ道を途中から西に曲がるように進めばいい。この辺りは都市国家群の主要な道から外れており、荒涼としており、道しるべが全くないため意外に迷いやすい。

 だが今回はそんな心配は無用だ。

 移動の費用から案内人まですべて冒険者ギルドが負担してくれているからだ。

「楽ちんだねえ。無料でここまでやってくれるなんてさ。これじゃ太っちまうよ」

「あら。じゃあ今すぐ交代する? 少しくらいやせるかもしれないわよ?」

 ロバに引かれた荷台に寝転がるターハにミミエルがいつものように突っかかる。ターハはひらひらと手を振って断りの意を示していた。

 シュメールの面々は用意された荷台に乗る組と徒歩で歩く組に分かれており、時間を見計らって交代している。

 それはシュメールだけでなく、他に戦士の岩山攻略に参加するギルドや企業なども同様だった。

「ざっと見えるだけで四百人弱か。こいつぁかなりの大所帯だな」

「ギルドも本気ということですね。ザムグ。緊張してない?」

「かなり、してます」

 エタが荷台の上から声をかけたザムグは暑さだけが原因ではない汗を流していた。

 事実上の初陣がこれだけの大舞台なのだから当然だろう。

「今からそんなんじゃもたないわよ? さっさと帰ったら?」

 つっけんどんなミミエルの口調はその実、ザムグの身を案じてのことだろう。

「いえ。行かせてください。俺たちだって役に立ちたいんです」

「そうは言っても君たちは後方支援だからね」

 エタとミミエルはまだろくな迷宮探索の経験がないザムグたちの参加は反対だったが、ラバサルとターハは賛成し、リムズが後方勤務の席を用意したため、そちらを手伝うということで同行を許可することになった。

 当然だがニントルはウルクの知人に任せており、同行したのはザムグ、ディスカール、カルムの三人だ。

「それもわかってますけど……こんなに大規模な迷宮攻略ってよくあるものなんですか?」

「ううん。いろいろ事情があるみたいだね」

「最近このあたりの冒険者ギルドはでかい未踏破の迷宮を攻略できてねえんだとさ」

 当然ながら冒険者ギルドは迷宮攻略を第一義とする組織だ。

 実績が挙げられなければ多方向から非難を浴びせられる可能性はある。体面が大事なのはどこも変わらない。

「冒険者ギルドもそんな理由で動くんですね……」

「ま、そんなもんよ。どこも利益とか見栄とか、そんなくだらない理由でしか冒険できないのよ」

 吐き捨てるようなミミエルに思わず周囲の視線を気にするが、誰も聞いていないようだった。

「それでよう。結局戦士の岩山ってのはどんな場所なんだ?」

 このあたりの事前調査はエタの役目だとほぼ全員が了解している。

「簡単に言うと石の戦士と呼ばれる巨大な石像が徘徊する岩山です。実際に見てみたほうがいいでしょうね」

 遠くに見える山は決して高くはなかったが、頑健で来るものを拒む印象が強かった。




 戦士の岩山は文字通り山岳地帯の迷宮であり、それゆえに非常に広大である。

 ごつごつした山肌に張り付くように背の低い植物が生えているが、それ以外にほとんど生き物の気配はない。

 なぜならここには決して侵入者を逃さない番人がいるからだ。


 どこかから入り込んだ山羊が遠目から見てもわかるほど悲壮感を漂わせて激走している。

 山羊が逃げているのは猛獣でも毒蛇でもない。

 もっと恐ろしい、石の怪物。

 そう形容するほかない異形だった。

 見た目だけなら地面を走るトンボ。

 ただし。

 どう見ても人二人分ほどの高さがある岩の巨体だった。

 飛べるわけもないのに翅を動かしているのは威嚇なのか、それとも人には測れない理があるのか。

 いずれにせよ岩がごりごりとこすれるような音を立てながら、網目状の目をぎらつかせて山羊を追うその姿は悪夢でも見ているのではないかと錯覚してしまう。

 これこそが石の戦士の一体、『トンボ』。

 山羊は良く逃げたほうだろう。

 健闘に値する。

 しかし終わりは必ず訪れる。

 露出した岩に足を取られた山羊は態勢を立て直すことができずに地面をごろごろと転がり、立ち上がるよりも先に石の『トンボ』が山羊の体に迫り……あたりには赤い液体がまき散らされた。


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