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深夜の住宅地にて。

 じくじくと、蒸し暑い夏の夜。終電を逃した俺は、仕方がないので徒歩で自宅へと向かっていた。


 昼間と違い、深夜の街は全く違う顔を見せて面白い。近くのコンビニで飲み物を買い、ぶらぶらと散歩気分で歩く。ビジネス街を抜け、住宅地へと入った。あと一時間ほど歩くと我が家だ。


 最近の夏は暑さが酷く、熱中症の危険性もあるが、たまにはこんな蒸し暑い夜に、終電を逃して一人歩いて帰るのも乙なものだ。


 ふと気付くと、先にある街灯の下に誰かいる。裸足で、季節外れのロングコートを着た女が、こちらを向いて立っている。髪の毛が長く前に垂れているので、顔は見えない。が、明らかに普通ではない。あれは生きている人間ではない気がする。


 危険を感じた俺は、うつむきながら通り過ぎた。何事もなくやり過ごすことが出来て、ほっとしたのもつかの間、そいつは俺を追ってきた。


 同じ速度で、横にピッタリとくっつき、歩いてくる。歩く速度を早めてなんとか逃げようとするが、女は離れない。


 俺と全く同じ速さで、歩いてついてくる。どれだけ速度をあげても、それに合わせてピッタリと。


 恐怖のあまり、女を見ることは出来なかったが、わかるのだ。こちらをじっと見ていることが。なんなんだこいつは。何が目的なんだ。心臓が張り裂けそうに鳴っている。


 しばらく歩いたが、さすがに蒸し暑い夜のこと。俺は途中でへばってしまい、立ち止まってしまった。するとそいつは、少し進んだところでこちらを振り向いた。


 …あいつは明らかに笑っている。「え? こんなんでへばったの? ダサーイ(笑)」という雰囲気がプンプンとする。恐怖が怒りに変わった瞬間だった。


「上等だこの野郎」


 誰もが寝静まった住宅地で、俺とそいつのレースは始まった。ショートカットを使い、相手を出し抜き、かと思えば追い抜かれ。俺と女の、徒歩のデッドヒートは続いた。


 結果は、半歩の差で俺の家に着いた。俺はすんでのところで勝ったのだ。近所迷惑にならぬよう、声を出さずにガッツポーズをした。こんなに熱い喜びを表に出すのは、何年ぶりだろうか。


 女は、少しだけ落胆したような雰囲気を出したが、俺に向かってサムズアップをし、消えていった。俺はそいつが消えた場所に向かって、頭を下げた。


 それから数週間後、俺はまた終電を逃し、徒歩で帰宅していた。ビジネス街を抜け、住宅地へ入る。すると、あの街灯の下で、例の女がこちらを向いて立っていた。


 ショートパンツにレギンス、オニツカタイガーのスニーカーにパーカーという出で立ち。髪の毛も後ろでまとめている。あれからトレーニングをしたのだろうか。足を始めとした全身の筋肉がパンプアップしている。今回は、俺が負けるかも知れないと思いながらも、滾る興奮を抑えきれない。


 ラウンド2の始まりだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい幽霊です。 幽霊の世界選手権ってのがあったら、競歩の優勝候補ですよね。跳んだりワープしたりするのは競歩では反則なので。
[良い点] 楽しませて頂きました。 気合いの入った女性の姿に、燃えてきますね。 こんな幽霊なら是非お会いしたいです。
[一言] ホラーっていうか、コメディだよねw でも面白かったです。
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