迎えにきたよ
いつも通っている道なのに、初めてそこに神社があるのに気付いた。古い小さな神社だけどきちんと手入れされている。
今日は期末考査で早めの放課で荷物も軽い。
「ちょっとお参りしてこよう」
今さら遅い気もするけど、テストの点数良いといいな。
鳥居を潜った時、どこからかシャーンと錫の音がした。御手水で手口を清め、本殿の前に立ち、礼をして柏手を打つ。
シャーン シャーン。錫の音がした。
私は礼をして横に置いていたカバンを持ち上げた。歩いているとシャーンと錫の音がずっと聞こえている。
私は鳥居を潜った。何故か本殿が目の前にあった。
「え?」
何度も何度も、帰るために私は鳥居を潜り続けた。
「なんで帰れないのよぉ」
つい、座り込んで泣き出してしまった。
つん。と冷たい感覚がして、私は顔を上げた。犬がいた。昔、家にいた、コウと、そっくりだった。コウは私が産まれる前から家にいて私が小さい時には私の兄で、成長してからは私の弟のような存在だった。
「コウ?」
「ワン」
コウにそっくりなんじゃない。コウなんだ。
「ワン」
コウは私のスカートの端を咥えて引っ張った。
「そっちなの?」
シャンシャンシャン…。錫が激しく鳴らされる。
鳥居が遠い。遠ざかる。
「ウウウ」
コウが何かに向かって威嚇し始める。
「コウ?」
「ワン!」
走れ、と言ったように思えた。私は全力で走りだした。コウも私の少し前を走っている。ふと、あんな短い足なのに早いな、なんて考えた。
鳥居を潜る時、コウはもう一度「ワン!」と鳴いた。
そこにはいつもの風景が拡がっていた。振り返ると、鳥居も神社もなくて、大きな楠があるだけだった。
「コウ」
コウもいなかった。
「迎えに来てくれたんだね、コウ」
ふわり、と風が吹いた。