世界は大抵無関係に回りに回って大団円
「親御さんのことも少しは同情するがねぇ。おいおい、時間を作っちゃみるが、お前以外みんなそれなりに年を食っちゃっているわけだよ」
「んー、そういうもん?マジかぁ、まあ、しゃぁねえな、それよかキンキンに、居候の身が堪えちゃっているからさぁ、高卒でバイト口あるかな」
元先生のジャイアンが調べた資料を取り出してきた。
「それだけどな、お前、五穀豊穣祭りの時にいなくなったろ、だからそこまでの主席数も足りてないし、単位しかないんだわな、温情でも卒業資格ないんだわな。お前、若い身空で、履歴書ではねられるとはいえ、見た目年齢をごまかせても、中卒どまりなのよ、大人の学歴社会舐めんなよ」
「まじかー」
「これはマジだ ま、これも、なあ、若いんだし、勉強のうちだ。おまえの軽い頭で色々考えてみろ」
「マジかぁ、やべえなぁ」
それでも、両親の家の回りは、利政の保険金で家を建て替えたという心ない、神隠し御殿というショボくれた名称で呼んでいる。いまだに親は利政がそのままの姿で戻ってきたことに戸惑い受け入れがたい事実としている。
「どうかそっとしといておくれよ」
言う利政両親は本人をまだ家にも上げないほど受け入れられないでいる。
「俺、死んだぁ」
という、ギャグも笑えない。
「つか、お前ど頭、軽いわけないはずだと先生昔から思ってたけど」の別れのセリフに頭を悩ませてみたが、利政はあまり深いことを考えると眠くなるのでやめた。
「おう、トシちゃん、マジか、全く老けてねぇ」
ヤンキー仲間で唯一連絡が取れた友達も、老けて腹の出たぎとぎとしたおっさんに代わっていた。
「マッつん、って頭薄いの? 」
野球帽子を指して言ってのけるので「俺のところのガキのチームコーチだよ。やっぱり男は見た目が肝心だろ」と、ぐいっと突っぱねられた。
「へえ、マッつん結婚したんだ」
「おう、ガキがわんさかいるぞ、今度遊びにこいや」
「えぇ、マッツつん、遺伝子見るの、ちょっとなぁ」
「そこは大丈夫だ、嫁が可愛いからな」
「なんだ、のろけかよ」
「お前にひとつでも勝てるところ見せて良かった、ま、ゆっくりがきと俺らのチームの練習でも観とれ、後でジュースおごってやる」
「要らねえ」
二人で歯を見せて笑った。マッつんの歯にはヤンキー時代に作った金の前歯が光っていた。
五年後。
パソコンからビデオレターが会社の社長室に届いていた。
バンクーバーの結婚式場で二人が笑っていた。
「ヤダヤダ、男って何でこういう押し付けレター寄越すんだか」もう未練もなにもないと言うのに、解約金と負債で泣き寝入りして恨んでくれてもいいのに、と元彼女はメールを閉じた。
小さい眼鏡の子どもは黒いランドセルが欲しかった。学校の規定バッグは帆布が入っているので近場の小学生と全く違う。通学路も通学時間も早いし遅い。
「ひとさらいにあうぞ」
と、よくからかうおにいさんがいた。
お菓子をよく食べていた。
「ポッキー食うか」
「……いらない、知らないひとからもらえないし、もらっちゃいけないんだ」
「今日は特別な日なの知らねぇの。それにこのポッキーくれたのは二組の女だし、生チョコは、五組のえーと、まあ知り合い? 全部知り合いから貰ったもんだから」
「でも、ぼくには知らないひとだ」
「俺とよく会って話ししてんじゃん」
「おにーさんが勝手に」
「で、今日は特別な日なの、日頃の感謝とかな、知っているか今日は」
「セイント、ヴァレンタインティヌスの日でしょ。日本じゃチョコレート送るけど海外はお花を贈るの」
「そーだよ、だからほれ、チョコレートあげるよ」
「いらない」
「わ、嫌なガキだ」
「ヴァレンタインティヌスは結婚できない不条理な恋人をきちんと結婚させてくれた聖人なんだよ……すごい軽いものじゃないんだ」
「よし、わかった約束な、お前が大きくなったら結婚してやる」
「なら、なら、いいよ。わかったよ、約束だからね! 」
「うっし、手付金はさっき俺様が自腹で買った冬限定チョコレート、ヴァッカスチョコだ」
と、いいながら、高級なラッピングの高級酒チョコを取り出してきた。
「うわっ、不味い」
「え、」
そう言われて驚いて引き気味の体が捕まれて、下の中に蕩けたチョコが入ってきた。