今夜も俺はぐっすり眠れない… ~あるシステムが存在しない世界~
眠れない……。
今、何時だ?
午前3時……。俺がベッドに潜り込んだのはゆうべの11時だから、もう4時間も一睡もできてないことになる。
体はすこぶる疲れてるのに、全く眠れない。
なんで俺が眠れないかって?
そりゃあ不安だからだ。これから先、俺やみんながどうなっていくかとか、何が起こるかとか、未来が不安でたまらないからだ。
もちろん、睡眠で無防備になるのが怖いってのもあるがね。
とりあえずトイレ行くか……。
トイレから戻り、布団に潜る。
目をつぶる。
……
……
……
あー、やっぱ眠れない!
トイレで出すもん出したせいで、目も冴えちまった!
こうなったらベタだが、羊でも数えてみるか。
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹……。
……
羊が108匹、羊が109匹、羊が110匹……。
……
羊が1560匹、羊が1561匹、羊が1560匹……ん?
羊が1561……? 62……? 60……?
ああもうわけ分かんなくなっちまった! せっかく1500までいったのに!
空想の中の羊どもが俺を笑ってる。
うるせー、笑ってんじゃねえ! このくそったれ羊どもが! 食っちまうぞ!
羊たちはメーメー鳴きながら逃げてった。
……いつの間にか外が明るくなってる。
今日はもう、このまま起きてた方がよさそうだ。
あーあ、一睡もできなかったなぁ。
***
部屋から出て、食堂に向かう。
三人の仲間たちは既に起きていた。
「おはよう……」
俺がリーダーらしからぬ全く覇気のない挨拶をすると、仲間たちも、
「オッス……」
「……おはよ」
「おはようございます……」
とこれまた覇気のない挨拶を返してきた。
「寝れた?」
頭をボリボリかきながら、俺がみんなに聞いた。
俺より体格のいい屈強な男――戦士はこう言った。
「いや全然。昨日モンスターにやられたとこが痛くてよ……。ほとんど眠れなかったぜ」
ほとんどということは少しは眠れたのか。羨ましい。
金髪で今時の娘といった感じの――魔法使いはこう言った。
「寝違えちゃったわ。もう最悪……」
たしかに首が変な方向に曲がっている。あれは痛いんだ。
修道服を着たおしとやかな女――僧侶はこう言った。
「私も色々と考えてしまって……寝たり起きたりを繰り返してました」
分かる。俺らがホントに魔王を倒せるのかとか考えただけで、睡魔なんて吹っ飛んじゃうよ。そもそも今日生き残れるかだって怪しい。
今の俺らのパラメータを表すとこんな感じである。
勇者 LV25 HP 223/310 MP 28/50
戦士 LV25 HP 241/332 MP 0/0
魔法使い LV24 HP 143/221 MP 138/201
僧侶 LV23 HP 129/216 MP 122/187
まるで回復していない……。
体力だの魔法力はアイテムでどうにかなる部分もあるのだが、やはり睡眠失敗による精神的苦痛は大きい。
かといって睡眠薬の類にも頼りたくはない。いざという時、熟睡してたら終わりだからだ。
食欲などないが、どうにか軽い朝食を済ませる。
宿の主人の「よく眠れましたか?」という問いにも、「ええ、ぐっすり」と返した。ここで「ちっとも眠れなかったよ」などと返すほど、俺は意地悪くはない。仮にも勇者だし。
さあ、今日も一日が始まる。
俺は三人の仲間を引き連れ、重い足取りでふらふらと宿を発った。
俺らの知らない、行くことすらできない遠い遠い世界では「宿屋に泊まれば全快できる」なんてシステムが構築されてるなんて聞いたことがあるが、実に羨ましい話である。
完
読んで下さりありがとうございました。