番外編4 養子 前編
「んん……?」
私はゆっくりと目を開けた
今は……もう夕方でしょうか?
もうここでの生活にも慣れてしまいましたね……起き上がらないと……あれ?
なんでしょう……起き上がろうとしているのに……何かが私を包み込んでいて起き上がることができません……。
というか私……なぜな何も身に着けていないのでしょうか……?
……そういえば、昨日、昼食を食べて……私が……。
「ん……」
私を包み込んでいた何かが……声を出した。
その何かも……私と同様に何も身に着けていなかった。
そう、彼女は……。
「あ、おはよう……リブラ」
「……おはようございます、カグラ様」
私の愛する人、カグラ様だ。
いつ見ても、美しい肌と白い髪が輝いている。
カグラ様は起きてすぐに……私の唇と自らの唇を重ね合わせた。
しばらくの間、私たちはそうしていた。
お互いに満足したところで、唇が離れ、顔を合わせた。
「昨日のリブラ……随分積極的だったね」
「……そうでしたか?」
私は昨日の事を思い出し、体が熱くなっている……ような気がした。
「あの……私、ちゃんとできていましたか?」
「……」
「え、ちょっと……」
カグラ様が突然、私の耳元に顔を近づけ、こう呟いた。
「……すごく良かったよ」
「……そ、そうですか」
「私は……どうだった?」
「すごく……良かったですよ」
「……ありがと」
私たちは、しばらくお互いの体温を感じあっていた。
すると、扉を叩く音がして、私たちは焦って起き上がった。
……お互いに胸部をシーツで隠しながら。
『姫様、リブラ様。夕食の準備ができました』
声の主はアブラム様だった。
「わかった! 準備するから待ってて!」
カグラ様がそう言って、アブラム様が先に食堂に向かったのか、足音が遠くなっていくのが分かった。
「……さ、着替えよっか」
「……えぇ」
私たちはベッドから脱出し、お互いの服を取り出そうとした。
「……その服、気に入ったの?」
「はい……」
私は初めてここに来た時……男児の生誕を祝う催しで、カグラ様が貸してくれた服を身に着けた。
気に入っていて、また着たいと言ったら……カグラ様が、「いっぱいあるからあげるよ」と仰ってくれた。
結婚して初めての……カグラ様からのプレゼント、私は嬉しかった。
「よし、着替え完了!」
黒い服に身を包んだカグラ様がそう言う……いつ見ても美しい。
私も着替えが終わった。
「じゃ、行こうか」
「はい!」
私たちは手を繋いで、食堂へと向かった。
◇
「さて、今日は何する?」
「そうですね……そういえば、気になるお店があったので、そこに行きたいですね」
「じゃ、行こうか!」
「はい!」
食事を終え、私たちは活気の溢れている夜の街へと出た。
いつ見ても、ここは美しい。
皆生き生きとしている。
目的地に向かいながら、周りを見渡していると、一人の女性が声を掛けてきた。
「姫様! リブラ様!」
「あ、あなたは……」
女性は子どもを連れていた。
大体3歳くらいの男の子、そう、彼は……。
「ひめさま、りぶらさま、こんにちは!」
私が最初にここに来た時に行われていた催しの主役の子だ。
見ないうちに、かなり大きくなっていた。
「やぁ、元気?」
「はい! とってもげんきです!」
カグラ様が男の子と目線を合わせ、声を掛けた。
「おかげさまで順調に育っています、これもお二人が見守ってくださっているおかげです」
「いえいえ、私は……」
「リブラ、貴方がいなかったらこの子はおろか、里自体が消えている可能性もあったんだから、そんなに謙遜しなくてもいいんだよ」
「か、カグラ様……」
それにしても、この子が順調に育っているのとは違うと思いますが……。
まぁお二人ともお元気そうなのはいい事ですが……。
「旦那さんも元気?」
「はい、おかげさまで……」
「なら良かった」
カグラ様と女性が会話を広げている中、私は男の子を見つめていた。
子ども……か、そういえば、何度か街を歩いてきましたが、女性同士のカップルでも、子連れの方が結構いらっしゃいましたね……。
あれはどういうことなのでしょうか……? もしも、子どもが作れるなら、欲しいですね……。
カグラ様との……子ども……。
って、私ったらなんてふしだらな事を!
「それでは、お二人ともお元気で」
「うん、またね!」
「さようなら! ひめさま! りぶらさま!」
気が付くと、お二人はどこかへと去っていった。
「ねぇ、リブラ!」
「は、はい!?」
「……大丈夫?」
「は、はい……そろそろ行きましょう!」
「うん……」
私たちは再び歩き出した。
◇
……そして朝。
私たちは、いつものように、何も身に着けず、ベッドの抱き合っていた。
私はずっと子どもの事について考えていた。
カグラ様との子ども……果たしてできるのでしょうか?
里では薬が発展している、恐らくそういう事も……できるのでしょうか?
うーん……わかりませんね……。
「……リブラ」
「はい、カグラ様……」
「……さっきから何考えてるの?」
「……」
カグラ様には、私が何かを考えているのは丸わかりなようだ。
……まぁ、私たちはもう結婚しているわけですし、隠し事は……無しでいきましょうか
「あの……質問なんですが……」
「何?」
「恥ずかしいのですが……そろそろ……私たちの……子どもとか……その……」
「……」
いざ言うと恥ずかしいですね……それに端から見ると少々気持ちの悪いような……。
……いえ! 気持ち悪くなんかありません! 私は真剣ですから! えぇ!
……カグラ様は真剣に私を見つめていた。
「……子ども、欲しいの?」
「……はい」
「うーん……私も……そう思うんだけど、結構難しいんだよね」
「と、言いますと?」
「女性同士のカップルでも子どもがいる人は確かにいるんだけどね……」
「はい……」
やはり、女性同士でも何らかの方法で子どもができるらしい。
「方法は3つあるんだけど……1つは男性から遺伝子を提供してもらう、2つは薬で片方を一時的に男性にする、3つは養子だね」
「……なるほど」
確かになんかちょっと……特に最初の2つは個人的に抵抗がありますね。
「最初の2つが多いかな、やっぱり吸血鬼で孤児の人は少ないし、元々出生率は少ないからね」
「へぇー……」
やはり命が長いと、その分子孫を残すという本能も薄れてしまうのでしょうか……?
「どう?」
「……養子以外の方法は……抵抗がありますね」
「そう……まぁ、無理に作らなくても良いんじゃない?」
「……そうですね」
やはり……難しいのですね……。
ガッカリが半分、仕方がないが半分という感じでしょうか……。
「ま、今日はもう寝よう」
「……はい」
「……おやすみ」
私たちは接吻をして、次の夜まで寝ることにした。




