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番外編3 姫と使用人 前編

「盟主様、ご用はなんでしょうか?」


 ある日、オレは盟主様に呼び出された。

 ……コキクはなぜオレが盟主様に呼ばれたか分かっているようだった。


「アブラム、今日からカグラの専属使用人になりなさい」

「姫様の専属使用人……でございますか」

「えぇ、事実上の家臣と言っても良いでしょう」

「……」


 姫様……確か数年前にお生まれになり、来年は10歳だったか?

 オレに子どもの面倒を見ろと? ……大丈夫だろうか?


「引き受けていただけますか? アブラム」

「……仰せのままに」


 あの人間と同じくらいの年齢、恐らく大丈夫だろう。

 ……そう心の中で考えていたが、オレはこの時、不安でいっぱいだった。



「姫様、初めまして、私は……」

「貴方がアブラム!?」

「は、はい……」

「私はカグラ! よろしくね!」

「は、はい、姫様……」


 部屋に入るや否や、姫様が私に向かって抱き着いてきた。

 子どもだから仕方がないが……鬱陶しい。

 オレはこれから半永久的に姫様に仕えることになると……不安でいっぱいだった。


「ねぇねぇアブラム!」

「は、はい、なんでしょうか、姫様」

「アブラムって、何の動物が好き?」

「ど、動物……ですか?」

「私は熊が一番好き!」

「く、熊……」


 姫様は動物の本を私に見せてきた。

 姫様は動物がお好きなようだ。


「私ね! 将来は動物を狩る仕事に就きたいんだ!」

「……」


 狩猟……親父が死ぬ寸前までやっていた仕事だ。

 オレも仕事を手伝ったことはある、下手すりゃ親父のように死ぬ可能性だってある。

 姫様は何故その仕事をやりたいのだろうか……?


「アブラム? なんか顔怖いよ?」

「あ、申し訳ございません……」


 ……いけないいけない、今は姫様に集中だ。


「ねぇねぇ、外行こうよ!」

「は、はい……」

「ほら、アブラムも着替えて来て!」

「あ、ちょっと姫様……お着替えお手伝いしましょうか?」

「一人で着替えられるよ!」


 オレは入室して数分も経たずに姫様に追い出された。

 ……姫様はオレに、「着替えて来て」と言ってきたが、オレは休みも城で過ごす事が多いので、「普段着」と呼べるものが……ほとんどない。

 あるにはあるのだが、もう何十年も着ていないので、恐らくそれを着て外に出たら浮いてしまう。

 どうすれば……。



「……で、私に話しかけてきたのか」

「……あぁ」

「嬉しいねぇ、久々に君から話しかけてきてくれたよ、今日は記念日にしようか?」

「御託はいいからさっさと服を貸せ」

「はいはい、全く、その怒りっぽいところ、相変わらずかわいいねぇ」

「……」


 オレは女遊びで服をたくさん持っていると考えたコキクに相談し、服を貸してもらうことにした。

 体格は似たようなものだし、恐らく同じ服を着ても大丈夫だろうと考えたからだ。


「さて、愛しのコウモリちゃんに似合う服は……」


 コキクは自分のクローゼットを開け、服を物色し始めた。

 ……心なしか、奴は楽しそうに見える。


「やっぱりこれかな!」

「……随分男っぽい服だな」


 奴は黒のポロシャツに白のジャケット、そして黒のズボンを取り出した。


「やっぱり女に受ける服っていうのは、こういう男っぽい服なんだよ」

「……別にオレはそういう目的で着るわけじゃない」


 全く、こいつは本当に……。


「いいからいいから、さっさと着替えなよ」

「……後ろを向け」

「えー?」

「いいから向け!」


 オレはコキクに壁を見るように指示し、服を脱ぎ始めた。

 全く、家臣に就任してまた相部屋になってからというのも、こいつはオレに対してアプローチを続けている。

 なんなんだ……? 女遊びができないからオレを代わりに使おうってのか?

 ……そう考えると気分が悪い。

 オレがズボンを履き終わると……後ろから視線を感じた。

 気味が悪くなって振り向くと……奴がこちらをガン見していた。


「見るな!」

「えぇー? いいじゃん、別に減るもんじゃないし」

「お前……死にたいのか?」

「ほう……」


 オレが奴に警告をすると、奴はものともせずこちらに近づいてきた。

 そして奴は……オレの体に触れ始めた。


「おい……やめろ……」

「いいじゃん……」

「やめろ……」

「逞しい体……それにいい匂い……やっぱり最高の女だ……」


 奴はオレの腹部を振れた後……胸部に手を振れようとしていた。

 オレはすかさず奴から離れた。


「おい……ふざけているのか?」

「別に? 私は愛しい君を独占したいだけさ」

「なんだと?」


 コキクはニヤニヤしながらオレを見ている。


「いいか? 次触ったらお前を本気で殺す……わかったな?」

「……」


 コキクは笑顔のままオレに近づいてきた。

 オレは後ろに下がり続け……気が付くと壁にぶつかっていた。

 奴は自分の手をオレの顔に叩きつけ、顔を近づけてきた。


「……脅しているつもりか?」

「……」

「……オレはお前なんかに屈するつもりはないぞ!」

「……」


 奴は黙って私を見つめていた。

 奴は曲がりなりにも家臣、処罰を受けても文句は言えない。

 それでもオレは、女としてのプライドがある。

 こんな女に捻じ曲げられてたまるかという強い意志もある。

 ……だが、恐怖も若干あった。

 奴は未だに笑っている。

 それでもオレは、抵抗を続けた。

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