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番外編2 とある令嬢とメイドの過去 別れと再会

「どういう事だ!!」

「ご、ごめん、私には婚約者がいるんだった……」

「……」


 私はこの日、森を出なければいけなかった。

 そして、唐突に思い出したのだ。

 自分にはベガという婚約者がいることを。


「本当にごめんなさい!!」


 私は精一杯謝罪した。

 本当に、アブラムからしてみれば、意味不明だろう。

私の自分勝手に振り回されて……。


「……わかった」

「……」


 アブラムは冷静にそう言った。

 表情は……悲しそうだった。

 私は見ていられなくて、アブラムの手を掴んだ。


「アブラム! 聞いて!」

「……」

「いつか必ず! ここに戻ってくる! だから……森の前で待ってて!」

「……」


 アブラムは黙って私の言ったことを聞いていた。

 しばらく沈黙が続き……アブラムは口を開いた。


「わかった、待ってやる」

「……ありがとう」


 私たちはお互いに抱き合った、別れるその時まで。



 ……そして、私はベガのいるところに戻り、彼と結婚した。

 子どもが産まれ、そそっかしいベガの補助をして、子どもたちの世話をして……。


 森へ行こうと思っても、行けなかった。

森の前でアブラムが待っていると考えると、心が痛かった。

 それでも私は屋敷で頑張った。

アブラムに……逞しい私を見てもらいたかったから。


 そして気が付くと……娘が25歳を迎え、私も既に中年になっていた。

それでも、アブラムの事が忘れられなかった。

多分、今森の前に行っても、アブラムは現れない。


 そんな事を考えていた矢先、娘の部屋から声が聞こえた。

その声は他でもない、アブラムだった。

 私は嬉しくて嬉しくて……アブラムを抱いた。

 アブラムは変わってなかった、いつものアブラムだった。

 そしてアブラムは……私の謝罪を受け入れてくれた。


 森の危機を解決して……そして、今。


「アブラム、久しぶり」

「……オヒュカス」

「リブラの養子が決まったらしいから、ついでに会いに来たよ」

「……そうか」


 アブラム、私が愛した唯一の女性……。

 いつもの素っ気ない態度が逆に安心する。


「夫はどうした?」

「今日は私だけだよ?」

「……そうかよ」

「ねぇねぇアブラム、久々に会えたんだから、里を案内してよ!」

「……別にいいが」

「やった!」

「……準備してくるから待ってろ」


 私は言われた通りに部屋の外で待っていた。

 ウキウキしながら待っていると、廊下から、燕尾服を着た女性が歩いてくる。


「やぁ久しぶり、オヒュカス様」

「……コキク様」


 ……未だに彼女には慣れない、姿を見るだけであの呪詛を思い出す。


「私の愛しのコウモリちゃんが凄い楽しそうでねぇ、貴方が来ると聞いたらアブラムのテンションがMAXで、私はイライラが溜まってしょうがなかったよ」

「あらそうですか、アブラムに胃腸薬でも調合していただいたらどうですか?」

「その肝が据わった態度……変わらないねぇ」

「貴方こそ、その厭味ったらしい口調、変わりませんね」


 今、私とコキク様の間に火花が散っているように見えた。

……が、コキク様は以前よりも態度が違うように見えた。


「……まぁ、今日は譲ってあげるよ、愛しのコウモリちゃんが悲しむ姿を見たくないからねぇ」

「まぁ、嬉しい」

「言っておくが……変な事したら……殺すからな……」

「えぇ、存じておりますとも」

「……このクソガキが」

「あら、お褒めの言葉どうも、女狐さん」

「……」


 コキク様は捨て台詞を吐いて、私の側を後にした。

 ……顔は、イラついているようには見えなかった。


「待たせたな、行くぞ」

「えぇ」


 アブラムが、お洒落をして出てきた。

 ……かわいい、私はその姿に見とれた。


「……どうかしたのか?」

「なんでもないよ! さぁ行こう!」

「お、おい! 引っ張るな!」


 私たちは、里へ急行した。

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