番外編2 とある令嬢とメイドの過去 別れと再会
「どういう事だ!!」
「ご、ごめん、私には婚約者がいるんだった……」
「……」
私はこの日、森を出なければいけなかった。
そして、唐突に思い出したのだ。
自分にはベガという婚約者がいることを。
「本当にごめんなさい!!」
私は精一杯謝罪した。
本当に、アブラムからしてみれば、意味不明だろう。
私の自分勝手に振り回されて……。
「……わかった」
「……」
アブラムは冷静にそう言った。
表情は……悲しそうだった。
私は見ていられなくて、アブラムの手を掴んだ。
「アブラム! 聞いて!」
「……」
「いつか必ず! ここに戻ってくる! だから……森の前で待ってて!」
「……」
アブラムは黙って私の言ったことを聞いていた。
しばらく沈黙が続き……アブラムは口を開いた。
「わかった、待ってやる」
「……ありがとう」
私たちはお互いに抱き合った、別れるその時まで。
◇
……そして、私はベガのいるところに戻り、彼と結婚した。
子どもが産まれ、そそっかしいベガの補助をして、子どもたちの世話をして……。
森へ行こうと思っても、行けなかった。
森の前でアブラムが待っていると考えると、心が痛かった。
それでも私は屋敷で頑張った。
アブラムに……逞しい私を見てもらいたかったから。
そして気が付くと……娘が25歳を迎え、私も既に中年になっていた。
それでも、アブラムの事が忘れられなかった。
多分、今森の前に行っても、アブラムは現れない。
そんな事を考えていた矢先、娘の部屋から声が聞こえた。
その声は他でもない、アブラムだった。
私は嬉しくて嬉しくて……アブラムを抱いた。
アブラムは変わってなかった、いつものアブラムだった。
そしてアブラムは……私の謝罪を受け入れてくれた。
森の危機を解決して……そして、今。
「アブラム、久しぶり」
「……オヒュカス」
「リブラの養子が決まったらしいから、ついでに会いに来たよ」
「……そうか」
アブラム、私が愛した唯一の女性……。
いつもの素っ気ない態度が逆に安心する。
「夫はどうした?」
「今日は私だけだよ?」
「……そうかよ」
「ねぇねぇアブラム、久々に会えたんだから、里を案内してよ!」
「……別にいいが」
「やった!」
「……準備してくるから待ってろ」
私は言われた通りに部屋の外で待っていた。
ウキウキしながら待っていると、廊下から、燕尾服を着た女性が歩いてくる。
「やぁ久しぶり、オヒュカス様」
「……コキク様」
……未だに彼女には慣れない、姿を見るだけであの呪詛を思い出す。
「私の愛しのコウモリちゃんが凄い楽しそうでねぇ、貴方が来ると聞いたらアブラムのテンションがMAXで、私はイライラが溜まってしょうがなかったよ」
「あらそうですか、アブラムに胃腸薬でも調合していただいたらどうですか?」
「その肝が据わった態度……変わらないねぇ」
「貴方こそ、その厭味ったらしい口調、変わりませんね」
今、私とコキク様の間に火花が散っているように見えた。
……が、コキク様は以前よりも態度が違うように見えた。
「……まぁ、今日は譲ってあげるよ、愛しのコウモリちゃんが悲しむ姿を見たくないからねぇ」
「まぁ、嬉しい」
「言っておくが……変な事したら……殺すからな……」
「えぇ、存じておりますとも」
「……このクソガキが」
「あら、お褒めの言葉どうも、女狐さん」
「……」
コキク様は捨て台詞を吐いて、私の側を後にした。
……顔は、イラついているようには見えなかった。
「待たせたな、行くぞ」
「えぇ」
アブラムが、お洒落をして出てきた。
……かわいい、私はその姿に見とれた。
「……どうかしたのか?」
「なんでもないよ! さぁ行こう!」
「お、おい! 引っ張るな!」
私たちは、里へ急行した。




