番外編2 とある令嬢とメイドの過去 告白
「ねぇ、外に出ないの?」
「出ない、オレは基本インドアなんだ」
「なにそれ」
次の日の夕方。
私はアブラムの過ごす「休日」に付き合うことになった。
……昼はかなり暇だった、みんな寝静まってて、私はアブラムの部屋で本を読んでいた。
アブラムは「起こすんじゃないぞ?」と言ってくれて、部屋に入るのを了承してくれた。
コキク様と相部屋らしいが……コキク様はどこかへ消えていた。
「お前……つまらなくないのか?」
「別に、面白そうだとは思うけど?」
私はアブラムの薬品作りを見物していた。
休日、アブラムはいつも薬品の研究をしたり、本を読んだりしているらしい。
つまらなそうだとは最初は思ったけど、真剣な表情で取り組んでいるアブラムを見ていると、自然とその流れに乗せられた。
「ねぇ、今は何の薬作ってるの?」
「骨折を治す薬だ。最近狩りで骨折する奴が増えているからな」
「なーんだ、結局仕事じゃん」
「別に、オレは好きでやってる」
「あ、そう……」
真剣に取り組んでいるアブラムは……とても美しい。
なんだろう、吸血鬼特有の白い肌と赤い瞳が、それをより際立たせている。
アブラム……。
「おい」
「え!? なに!?」
私はアブラムに声を掛けられて、我に返った。
「そろそろ夕飯の時間だ、行くぞ」
「あ、うん……」
私はアブラムに連れられ、使用人の食堂へ連れていかれた。
「……」
「な、なに!?」
「……なんでも」
廊下を歩いているとき、アブラムは私をじっと見つめていた。
なんなんだろう……。
「さ、行くぞ」
「う、うん!」
◇
「ちょ、ちょっとどこに行くの?」
「良いから来い」
アブラムは食事を終えるや否や、私を引っ張ってどこかへ連れて行こうとしていた。
「ま、まさか城の外?」
「……ある意味ではな」
ある意味? どういうこと?
私はそのまま引っ張られ……最初に来た屋上で止まった。
「こ、ここは……」
「最初にここに来た時、見とれてただろ? もしかしたら、オレが急かしたせいでじっくり見られなかったろうから……」
「あ、ありがとう……」
どうやら私が外の世界を見たいのだろうと気を使ってくれたらしい……。
た、確かに見たかったから、嬉しい……かな。
城の外から見えた里の風景は……美しかった。
浮かぶランタンに、大木を切り抜いてできた建物、空を飛んで和気あいあいとする人々……ここ で、私はある違和感を抱いた。
「なんか……女性の比率高くない?」
「人間の目線ではそう見えるかもな」
アブラムは吸血鬼の性別の比率について説明してくれた。
どうやら女性の比率がかなり高く、男性はほんの一握りしかいないらしい。
「そんで、女同士で付き合ってるって奴らも多いな」
「女同士……?」
「人間的には違和感があるかもしれないが、それがここでは普通なんだよ」
「へぇー……」
女同士で付き合う……なるほど。
「な、なんだよ……」
「……」
アブラムはとても美しい、そして乱暴なくせに、優しい。
私にとってアブラムは何なんだろう? そう考えると、答えは一つしかなかった。
「ねぇ、アブラム」
「なんだ?」
「私……アブラムが好き……かも」
「……は?」
私は思いを率直に伝えた。
勘違いでも何でも良かった、今は……それしか考えられなかった。
「お前……気でも狂ったのか?」
「そんなんじゃない、私はアブラムが好き」
「……」
ここに来た時、コキク様を止めた時、薬品研究を眺めていた時。
感じた感情は……恋だ。
「ねぇ、アブラム……付き合って?」
私はこの時、自分の婚約者の存在が記憶から欠落していた。
今思えば、なんと馬鹿な事を言っているのだろうと思う。
だがアブラムは……。
「……オレもお前が好きだ」
「え、えぇ!?」
なんと、彼女も私の事が好き……らしい。
「な、なんで!? どこが!?」
「……言わない」
「言ってよ!」
「言わないったら言わない!」
「もう! 頑固なんだから!」
「ふふふ……」
「あれ!? 笑った!?」
「笑ってない」
「嘘! 笑ったでしょ!」
「笑ってない!!」
◇
「全く……困ったなぁ」
昨日のアブラムの態度、そして盗み聞きした明日の予定。
全てを照らし合わせてまさかとは思ったが……。
「どうやら私に恋敵ができてしまったようだ」
……だが、奴は人間、それに明日は奴が森を出なければいけない。
本当は今日、奴の邪魔をしようと部屋に居座る予定だったが……愛しのコウモリちゃんが幸せそうにしていたので、ここは空気を読んでやった。
多少のハンデは必要だからね、それに……。
「叶わぬ恋を少しだけ成熟させるのも……悪くないからね」
さて、この後奴はどうするのか……陰で見守ってやるか。
まぁ、結末は目に見えているけどね……。




