番外編 家臣とメイドの過去 合流
「コキク」
「はい、盟主様」
「貴方の働きぶりには大変感銘を受けました、よく頑張りましたね」
「ありがたきお言葉……」
「よって、貴方を私の家臣に任命します」
「ありがとうございます、盟主様」
数年の月日が経った。
あれから私は色んな事をマスターした。
お茶の淹れ方、庭の手入れ、城の外の人々との交流、他の使用人を統率するスキル……。
私に勝る使用人はいないということを、証明するものが今、できた。
「何か欲しい物はありますか?」
「……え?」
「せっかく家臣に昇格したのです、ご褒美をあげましょう、何でも言いなさい」
「な、何でも……」
何でも。
アブラムも言った言葉だ。
今の私に欲しい物……それは……。
「でしたら……」
「……本当にそれでいいのですか?」
「……はい!」
私は望みのものを口にした。
◇
「……悔しい」
家臣の席を、まさかあいつに奪われるとは……。
あんな腑抜けた女を任命するなんて、盟主様は何を考えていらっしゃるのだ?
……だが、最近の奴の活躍は耳にしている。
妥当ともいえるか……納得できないが。
「しかし……これで奴とも別部屋か」
家臣に任命された以上、奴とは必然的に部屋が別になる。
当たり前だ、この時点で身分差ができてしまった。
だがこれでせいせいする、あんな女狐と顔を合わせずに……。
「……」
何故だろう、凄く……胸の奥に穴が開いたような感覚がする。
ええい! きっと違う生活になるから不安なだけだ! 不安な……。
「アブラム!」
「……」
あいつが帰還してきた。
恐らく、オレの事を笑いに来たんだろう……適当に労いの言葉を掛けておいてやるか。
「……おめでとう、オレの負けだ、笑いたけりゃ笑うがいい」
「負け? 何を言ってるんだ?」
「……は?」
なんだこいつ……オレを嘲笑うために来たわけじゃないのか?
「実はな伝えなきゃいけないことがある」
「おう……」
伝えなきゃいけないこと? なんだ?
「……またお前と相部屋になることになった!」
「……は?」
……ん? どういうことだ?
「それもこんな狭苦しい部屋じゃない! もっと豪勢な部屋だ! 2人で使おう!」
「おい……どういう風の吹き回しだ?」
「いやいや、あんな広い部屋、一人じゃ使えないからな……どうせなら、アブラムにも使って欲しくて……」
「……」
オレはなぜか腹が立って……奴の服を掴んだ。
「お前……ふざけているのか?」
「ふざけてないが?」
「あんまり変なこと言ってると……殺すぞ?」
「おいおい、物騒なこと言うんじゃないよ……愛しのコウモリちゃん?」
「は?」
何言っているんだ? い、愛しの……コウモリ?
「お前……馬鹿にしているのか!」
「馬鹿になんかしてないさ……私はお前の事、愛しているからな」
「……は?」
こいつ……調子に乗っているのか?
「さぁ早く荷物をまとめろ! これは家臣命令だ!」
「ちょっと待て! 盟主様の許可は……」
「取ってある、即ち拒否すれば盟主様に逆らったことになるぞ? いいのかな?」
「……」
クソ……この女……。
「……わかった、だが勘違いするな、これは盟主様のご命令だから従うだけだからな」
「はいはい、それじゃあ、荷物は私が持つから、先に部屋に行っていてくれたまえよ」
「家臣に持たせる使用人がいるか! この間抜け!」
「家臣に間抜け呼ばわりとは失礼だね……まぁ、私は君を愛しているから許してやろう、愛しのコウモリちゃん」
「お前……本当に殺すぞ」
「ははは! いいねぇ、そういう顔! まぁ、確かに君の言い分ももっともだ! 先に行っているよ! じゃあねー!」
「……」
全く……あの女……嫌いだ!
……荷物をまとめよう、仮にも家臣の命令だ。
「……全く」
口角が上がったような気がしたが、きっと気のせいだろう。




