番外編 家臣とメイドの過去 拒絶
「……アブラム」
私は城の屋上に出て、アブラムの事を考えた。
奴とは物心ついた時から一緒だ。
姉妹みたいなものだと思っていたが……なぜ今になってあいつにそんな感情を?
……いやいや、これは恐らくあれだ、ここの女がアレすぎてて、あいつが相対的にいい女に見えるだけだ。
そうだ、あいつは……。
「ここにいたか、アブラム」
「……なんだよ?」
私は素っ気ない感じで返事をした。
「一体どうした?」
「……別に」
「人が心配しているのにその態度は何だ?」
「いいから放っておいてくれ!」
「おいコキク!」
私は屋上を後にしようとした……が、腕が引っ張られる感触がし、私は立ち止まった。
「おい! 放せよ!」
「オレは! ……お前が心配なんだ」
「……」
アブラムは私を見つめている。
……この視線は、私にだけしか見せない、真剣な眼差しだ。
「なぁ……オレに出来る事なら何でもするぞ、言ってみろ」
「……何でも?」
今、こいつは私の為なら何でもすると、そう言った。
今のこいつは……私の思うがままに出来る。
ならば言ってやろう、今の率直な気持ちを。
「なら……」
「お、おい……」
私はアブラムの体を抱き、耳元で囁いた。
「……私のものになってくれ」
「……は?」
「私は……お前を独占したいんだ」
「お前、ふざけるのも……」
「ふざけてなんかない、アブラム……お前の事が……好きだ」
「は?」
……やはりこいつは、他の女と比べて頑固だ。
……そそられる、これほどまで頑固だと、尚の事自分のものにしたくなる。
「ならば証明してやる」
「おい……コキク……ッ!?」
私はアブラムの顔目掛けて接近し……唇を合わせた。
「ん」
「んん!?」
アブラムは逃げようと抵抗するが、私は逃がさない。
落とさせてやる、絶対に私のものにしてやる。
私はそんな気持ちで接吻を続けるが……突然、アブラムが私の体から離れ……平手打ちをした。
「……お前、ここまで落ちぶれたのか?」
「……」
私は何も言えなかった。
「ここに来て多少丸くなったと思ったが……見損なったぞ」
「……」
「……オレに近づくな、この女狐が」
アブラムはそう吐き捨てて、屋上を後にした。
私はもう何が何だか分からなくなり……その場に膝を落とした。
◇
あの日以来、アブラムは口をきいてくれなくなった。
私が話しかけようとしても、聞こえないフリをしたり、他の使用人に声を掛けてどこかに消えて行ってしまうのだ。
私は……再び孤独になった。
自業自得だった、無理矢理自分のものにしようとした結果、罰が当たったんだ。
……私は最低な女だ。
何度も謝ろうとしたが、アブラムは聞きもしない。
……どうすればいいんだ。
私は仕事をしながら、アブラムの事を考えていた。
あいつは……本当に凄い奴だ。
私よりも仕事ができて、面倒見が良くて、何より……美しい。
それに頭もいい、最近あいつが開発した薬品のおかげで、里の外に出られるようになったらしい……とは言っても出る機会は限られるのだが。
どうやったらあいつに振り向いてもらえる?
一体どうやったら……。
「ねぇ、そういえば聞いた? 盟主様が、使用人から家臣を選ぶんですって」
「本当? でも……私じゃ多分無理かな、多分アブラム様辺りがなるんじゃない?」
「だよねぇ、あの人に勝てるわけがないよね」
使用人が仕事をしながら世間話をしていた。
……家臣か。
確かにあいつなら確実になれるだろうが……そうしたら、益々離れ離れになってしまうな……。
……そうなったら、嫌だな。
『お前は全くダメな女だ、毎日のように女遊びをして、男と喧嘩をして……このままでは取り返しのつかないことになるぞ』
……そういえばここに来る前、アブラムはそう言っていた。
『ここに来て多少丸くなったと思ったが……見損なったぞ』
……そうだ、ならば、生まれ変わった私を見せてやれば、あいつは口をきいてくれる筈!
そうだ! それだ! 今まで女を口説くのにも苦労をした私だ! このくらい……屁でもない! やってやる!
こうしちゃいられない……今やっている仕事を終わらせなければ!
「あれ? コキク様? どうしたんでしょう?」
「さ、さぁ……」
待っていろ! アブラム! 今に目にもの見せてやるからな!




