番外編 家臣とメイドの過去 連行
私は産まれた時から孤独だった。
両親は物心ついたころに病気で他界し、私は孤児院で過ごした。
……はっきり言って、ほとんどが数百年以上生きる吸血鬼に置いて、「両親がいない」というのはほとんどの場合はありえない。
ましてや、当時の私のような子どもが独りぼっちだなんて、一握りしかいない。
なので、孤児院では私の他にはたった一人しかいなかった。
その一人というのは……。
「おい! コキク! もう夜だぞ!」
「はいはい」
……他でもない、アブラムだ。
アブラムも私と同じような境遇だった。
母親が病気で他界し、しばらくは父に育てられていたが、その父は狩猟の仕事中に事故で他界。
以降ここで暮らしていた。
「……まったく、いつまでも女遊びをしているからだ」
「別にアブラムには関係ないだろう?」
当時、私は愛というものが分からなかった。
孤児院では世話係がああしろこうしろ言うだけで、愛情というものは一切感じなかった。
ある時、道を歩いていると、女二人が仲睦まじい姿を見せながら歩いていた。
それを見た私は気になって、後を追いかけた。
2人は物陰に入るや否や、接吻をし、お互いの愛を確かめ合っていたのだ。
そうか、これが愛というものなのか……私もやってみたい。
そう考えて、私は行く先々の女に声を掛けた。
……最初は上手く話を広げることができず、軽くあしらわれていた。
私はそれが悔しくて悔しくて、一度研究することにした。
女が喜ぶ仕草、ファッション、話し方に話題……。
それを完璧にマスターした私は、いつの間にか、色とりどりの女に囲まれていた。
幸せだった、愛をたくさん感じられた。
1人を口説いては、宿泊施設に入り、愛をたくさん貰ったり、逆にあげたりしていた。
しかし、それを妨害する奴もいた……そう、男だ。
「ようよう、かわいいお姉さんたち、よければ俺と朝、飲みに行かないかい?」
絵に描いたようなナンパだった。
私たちを酔わせて、餌にするつもりなのが見え見えだった、私の女の1人が嫌そうな顔をしていた。
「ほらほら……」
「やめて……ください」
私は思わず、男の腕を掴んだ。
我慢ならなかった、私の愛を妨害するだけでは飽き足らず、私の大切な女の1人を傷つけているからだ。
「おい」
「な、なんだよ?」
「私の女に手を出すな……殺すぞ」
私は男を睨みつけ、手首をへし折るほどの力を入れた。
こうすると、大抵の男はビビッて退散するが……。
「このアマ!」
この男は容赦なく、女の私の顔面目掛けて拳を振った。
私はそれを華麗の避け、奴の腹に目掛けて足をお見舞いしてやった。
男は腹を抑え、咳き込んでいる、いい気味だ。
「いいか、私の女に手を出したら容赦はしない……さっさと消えろ」
「ひ、ひぃ……」
全く、男は本当に嫌いだ。
奴らは子孫を残すことしか頭にない、もう少し愛というものを勉強したらどうだろうか?
彼女たちは私を見て、安心したような顔を見せている。
私はそんな彼女たちと、愛を確かめ合った。
◇
「おい、コキク」
「なんだよ」
見慣れた金髪の女がいつものように声を掛けてくる。
全く、この女は本当にしつこい。
毎日のように私を叱り、毎日のように私に命令し、毎日のように私に嫌味を言う。
一体なんなんだ?
「盟主様が、新たに城の使用人を雇うらしい、お前も来い」
「はぁ? なんで私が」
「お前は全くダメな女だ、毎日のように女遊びをして、男と喧嘩をして……このままでは取り返しのつかないことになるぞ」
「別にアブラムには関係ない」
「関係ある、オレは曲がりなりにも同居人だ、その弛んだ心を矯正するためにも、私と一緒に働け」
働くだ? ……めんどくさいな。
「悪いが私はここに留まるよ、お堅い屋敷に閉じ込められるなんて、ここであの世話係の命令を聞いていた方がマシだね」
「……そうか」
「あ、あぁ……」
アブラムは素っ気ない返事をして、向こうへ行った。
あれ? やけに素直だな。
まぁいいや、うるさい奴も消えたことだし、夜寝でも……。
「コキク」
「なんだよ?」
めんどくせぇ、適当に返事して寝る……。
「んん!?」
突然、アブラムに布で口を抑えられた。
お、おい! こいつ一体何を……ダメだ、意識が遠のいて……。
「一緒に来てその心を叩き直せ」
「な、なにを……」




