第六十九話
「それでは、2人で婚約の甘噛みを」
「えぇ!? ここでですか!?」
確かカグラ様が「甘噛みは婚約の印」と仰っていましたが……。
「ほらほら、私に尽くしたいんでしょ? 早く」
「は、恥ずかしいですよ~」
「いいじゃん、別に血を吸うわけじゃないんだし」
家族だけでも恥ずかしいのに、盟主様や長老の皆さんの前でやるんですよ! 恥ずかしいに決まっているじゃないですか!
「リブラ! 早くやりなさい! ここのしきたりを守れないと、コーヴァス家の名が廃りますよ!」
「姉さん! ここでやらないと僕たちが吸血鬼の皆さんに敵意があると思われちゃいますよ!」
「流石にそれはないじゃないんですか!?」
お母様とレオが大袈裟な事を言ってきた。
な、なんですかみんなして!
「ほら」
「え、ちょっと……」
カグラ様の牙が……私の首に触れた。
カグラ様の暖かい息が、首に伝わる。
「ほら、リブラも」
「……」
カグラ様は首をこちらに差し出している。
わ、わかりましたよ! これもカグラ様に尽くすためです!
私はカグラ様がやったように、カグラ様の首元に噛みついた。
こ、これであっているのでしょうか……?
「痛! リブラ、もっとやさしく……」
「ひゃ、ごめんなひゃい!」
私はカグラ様に甘噛みしながらそう言った。
私は先ほどよりも優しく、カグラ様に噛みついた。
しばらく、甘噛みしましたが……これで婚約成立なのでしょうか?
「盟主であるナミスの名において、ここに、リブラ・コーヴァスと我が娘たるカグラの婚約を認める!」
盟主様は高らかにそう宣言した。
なんで大声でそんなこと言うんですか! は、恥ずかしいですよ……。
「やったね! リブラ! ……リブラ?」
「すみません……今はちょっと……」
私は恥ずかしさのあまり、手で顔を覆った。
「ベガ、明日、ここで結婚式を行いたいと存じます。よろしいですか?」
「は、はい! もちろん!」
け、結婚式ですか!? そんな大胆な……。
私は暑さのあまり、その場に膝を落とした。




