表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/100

第六十六話

 リブラが里に泊まり、次の日の朝。

アトラスと兵士たちは、伐採計画の準備をしていた。


「よし! 各々準備はできたな! 全員馬に乗れ!」


 アトラス達は馬に乗り、目的地へと向かった。

アトラスは馬を走らせながら考えていた。

 この功績を収められれば、きっとリブラが再び戻ってくる。

最初はハイドラと会いに行きやすくするために考えたが、今はそんなことどうだっていい。

 早くあの忌まわしい森を丸裸にしてやろう……と。

 後の続く兵士たちは、たったこれだけの人数ですべてを伐採するのは無理だろうと考えていた。

 しかし脅された以上、従わなければ自分たちに命が危ない、今は同行するしかない。

 各々思惑や不安を抱え、馬を走らせた。


 やがて一行は、森の入り口に到着した。


「さぁ皆の衆! マチェーテを持て!」


 一向は伐採道具……マチェーテを持ち、馬から降りた。

アトラスは道具を持ちながら、森の入り口に近づいた……その時だった。


「だ、だめです! ここから先には近づかないでください!」


 突然、一人の女が森から飛び出してきた。

 アトラスはその姿に見覚えがあった。

 それは……。


「……リブラ!? なぜこんなところに!?」


 アトラスは、突然森から出てきた元婚約者に驚愕した。

リブラはアトラスの近づき、訴え続けた。


「この先はとても危険なんです! 早く逃げてください!」

「な、何を言っているんだ?」

「この先には恐ろしい吸血鬼が!」

「君もか! もうそんな迷信にはうんざりなんだよ!」


 アトラスはリブラを払い除け、森へと前進した。


「だ、ダメです!」


 リブラは訴え続けた。

 アトラスは森に背を向け、リブラに反論した。


「いいかい? そんな下らない迷信に惑わされるよりも、この邪魔な森の木を木材にして、国民に家を与えたり、木炭にして燃料にしたほうがずーっと有意義だと思わないか?」

「……」

「君には分からないだろうが……みんなこの森に大変迷惑しているんだ、勿論俺もね。君だって本当は同じ気持ちだろう? 当然だよねぇ、この森のせいで王都まで行くのに一苦労じゃないか」

「……」

「だから俺たちはこの森を消してみせるのさ、何日かかるかは分からないが……きっと王国の為になり、お父様も喜んでくださる……そうだ、いい機会だ。また俺の女にならないか? 何と言っても俺は将来的にあのクソ兄貴どもを蹴落として王になるのだからな! 君にだって……」


 アトラスが熱弁を続けている中、兵士たちがアトラスの後ろを盛んに指を差していた。

アトラスは兵士たちのその姿に怒りを露にした。


「貴様ら! 俺を誰だと思っている! 俺は第三王子だぞ! その第三王子に指を差すなど……」

「あ、アトラス様……」

「なんだ? 君まで……ふざけるのも……」


 ふざけるのも大概にしろ。

そう言ってアトラスは振り返ろうとした。

 だが、アトラスは「大概にしろ」と言おうとした瞬間に、黙ってしまった。

その理由は……。


「な、なんだ!?」


 突然、森から白髪の少女が出てきたからだ。

少女は無表情のまま、アトラスに向かって来ていた。

 兵士たちは少女の姿に察しがついていた。

そう……その姿は……。


「きゅ、吸血鬼だ!」

「本当にいたのか!?」

「に、逃げろ!」


 兵士たちはあまりの衝撃に、馬に乗らず、走って逃亡した。

アトラスは怖気づくも、マチェーテを少女に向けて言い放った。


「お、おい! そこの女! ず、頭が高い! 俺はノクチュア王国第三王子の……」


 アトラスが名乗りをあげようとしたその時、少女が羽を広げ、アトラスに目掛けて突進してきた。


「ひ、ひぇ……」


 少女がマチェーテを奪い、真っ二つに折った。

続いて、アトラスを吹っ飛ばし、リブラに突進する。


「た、助けて! アトラス様!」


 リブラが少女に捕まってしまった。

 この時、アトラスの目線では、リブラが少女に押し倒され……噛みつかれているように見えたのだ。

 アトラスはこの時、察してしまった、「リブラが吸血鬼に襲われ、血を吸われている」と。

アトラスは吸血鬼について「迷信だ」と言っていたが、伝承について知らないわけではない。

アトラスの頭の中で、伝承の中の、ある項目がよぎった。


『空っぽになった人間は、血を求めて、また人間を襲う吸血鬼となることがある』


 アトラスは腰が抜け、その場に座り込んでしまった。

しばらく時間が立ち……少女の口からは、血液と思われる緋色の液体が漏れ出していた……

そして、リブラの姿は……白い肌に、赤い瞳をしていた。

 少女がリブラから離れ……白い肌のリブラが、何事もなかったかのように立ち上がった。

アトラスはハイドラの屋敷の時と同じように、失禁した。

 リブラは、口を開き、爪を立て、アトラスに襲い掛かろうとした。

アトラスはそれを間一髪で避けた。


「り、リブラ……俺だ! アトラスだ! お前の……婚約者だ!」


アトラスは、命乞いの代わりにそう言った。


「血が……欲しい……」

「血をよこせ……」


 アトラスは2人から逃れようとした。

 すると、2人の後ろから、少女と似たような白い肌と赤い瞳を持った人物が、数十……数百人出てきた。


「血をくれ……」

「血が欲しい……」

「新鮮な血液……」

「人間の血……」


 全員羽を広げ、牙を立て、アトラスに向かって歩き出した。


「た、助けてくれ!」


 アトラスは最後の力を振り絞り……馬に跨り、その場から消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ