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第六十二話

「さぁ、ここだ」


 アブラム様は、扉の前で止まってそう言った。


「ここは……?」

「……姫様のお部屋だ」


 えぇ!? か、カグラ様の、おおおおおおおおお、お部屋!?


「ちょっと待ってください! その前に深呼吸……」

「……早くしろ」


 はぁはぁ……落ち着きましょう……。

吸って……吐いて……吸って……吐いて……。

 はぁ……まだ落ち着きませんわ。


「姫様、お客様を連れてきました」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 アブラム様がしびれを切らしたのか、部屋の扉をノックして、カグラ様を呼び掛けた。

私は思わず大声を出してしまった。


『その声、リブラ!? リブラなの!?』


 扉越しにカグラ様の声が聞こえる。

私は緊張のあまり、何も言えなかった。

 カグラ様の声が聞こえて数秒も経たずに、扉が勢いよく開いた。

私がそれに驚いていると、全身に暖かい何かが覆いかぶさったように感じた。


「リブラ! すごーーーーーく会いたかったよ!!」


 私は我に返り、その暖かい何かが、カグラ様であることに気づいた。

カグラ様は私を抱きしめている……私が潰れそうな力で。


「か、カグラ様……苦しいです……」

「あ、ごめん! リブラ……」


 カグラ様は力を緩め、私と目を合わせた。

私はカグラ様のお顔を見ることができて、凄く安心した。


「ふふふ、私も会いたかったですよ、カグラ様」

「リブラ……」

「カグラ様……」


 私たちはお互いに近づき……唇を合わせた。


「ん」

「んん……」


 私たちはお互いに密着し、愛を証明した。

今、ここは私たちだけの空間……。


「おほん、よろしいでしょうか?」


 ……というわけではなかった。

我に返ると、アブラム様が冷静な目つきで、私たちを見つめていた。


「あ、ごめんアブラム」


 カグラ様が私から離れた。

……もうちょっと、密着したかったですわ。


「さて、積もる話もあるし、まずはお茶でも飲みましょ! アブラム、お茶お願いできる?」

「かしこまりました」


 アブラム様はお茶を取りに部屋を後にした。

私はカグラ様に手を引っ張られ、部屋へと入っていった。

……私は久々の感触に、嬉しい気持ちになった。

 でもよく考えたら、積もる話と言っても、私たち離れ離れになってから数日しか経っていませんけどね……まぁ、カグラ様とお会いすることができて嬉しいですけど!

私はカグラ様に誘導され、椅子に座った。

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