第六十話
「オヒュカス……オレはずっと待ってたんだぞ!? なぜ来なかったんだ!?」
「仕方ないじゃない……ベガと結婚して、子供が出来て、その後も忙しくて……」
「……」
アブラム様は怒っているような……悲しんでいるような……そんな顔をしていた。
お互いが黙り、沈黙の時間が再び流れる。
私は何も言えなかった。
「……お前の子どもであるこいつを見てると、仕方がないように思えるよ」
「……え?」
沈黙の時間を切り出すように、アブラム様が言葉を発した。
私……?
「こいつをここまで育て上げるのは、人間では困難だろうな。……オレも内心は分かってたよ、どうせ会えないって」
「……アブラム」
「……オレたちは最初から愛し合わなければよかったんだ、そうすればこんな気持なんかには……」
「……そんなことありません!」
私は思わず、大声を出してしまった。
「愛し合うのに、良いも悪いもありません! 例え短い時間でも、お母様とアブラム様は愛し合った! その時間は本当に無駄だったのですか!」
「り、リブラ?」
「……」
あ、私ったら……なんてことを……。
「……無駄じゃ……無かったな」
「……そうね」
「あの時は楽しかった、短い時間だったが……」
「……」
あら? いい感じになってます?
「……アブラム」
「なんだ?」
「会いに行けなくて、本当にごめんなさい……」
お母様はアブラム様の手を掴んだ。
「許してくれる?」
「……お前の娘に免じて、許してやる」
「……ありがと」
「お、おい……」
お母様はアブラム様に近づいて……接吻をした!?
ちょちょちょちょっと! 私が目の前にいるのに……。
しばらくすると、お二人が離れた……。
「お前……自分の娘の前でやるとか正気か!?」
「あら? じゃあリブラの前じゃなかったらいいの?」
「……」
もう……恥ずかしくて見てられません……。
「……おい、よく考えたら、今はこんなことをしている場合じゃないだろ」
「そうね……」
「……え?」
お母様とアブラム様が……真剣な表情になった?
「あの……何かあったのですか?」
「リブラ……あなたには……」
「おい、こいつはお前の家族だろう? それに里の存在も知っている……話してやれ」
「え、えぇ……」
お母様は気持ちを切り替えるためか、お茶を飲んだ。




