第五十九話
「それで……差し支えなければ、別れた理由を教えていただけませんか……?」
私がそう言うと、2人は顔を合わせ、お互いにそっぽを向いた。
……やっぱりそういう事を聞くのはデリカシーが無かったでしょうか?
「……昔、オレは狩りの為に里を離れた。いつものように動物を狩って、食べられる果実を採取していた……その時、ある女が森に迷い込んだ、その女が……」
「私よ、私はその時、当時婚約者だったベガ……貴方のお父様の領地へ遊びに来ていたの、あの時はまだ幼かったわね……」
お母様はアブラム様を見て……微笑んだ。
「んで、オレはその女を保護して、里へ連れてきた。話を聞くとそういう事だったというわけだ」
「私はしばらくの間、盟主様の城で保護されたの」
……なるほど、だから盟主様もカグラ様も、お母様の事を知っていたのですね。
「……当時、ベガはまだ里の事について聞かされてなかったの。だから私も知る由もなかった」
「オレはこの女を預かっている間、世話係を請け負った……今思えば、断っとけばよかったよ」
「あら、仕事でしょ?」
「……うるせぇ」
アブラム様……なんか本調子じゃなさそうでかわいいですね……。
「それで、私はアブラムにずっと付いていった……そして、好きになってしまったの」
「……」
アブラム様は再び顔を下に向けた。
「アブラムは口は悪いけど、保護された私をまるで大事なお客様のように面倒を見てくれて、無理難題なことをやってくれたの」
「……仕事だからだ」
「あら? 仕事している貴方、とても素敵だったよ?」
「……お前のそういうところが嫌いだ」
……なんでしょう、アブラム様は昔からそんな感じだったのですね。
私に対してもそんな感じだったように思えます……。
「それで、次の日……私はアブラムに告白したの、付き合って欲しいって」
「……」
「アブラムは了承してくれた、確かなんて言ってくれたんだっけ?」
「……オレも……好きだ……そう言った」
「そういえば私のどこが好きになったの?」
「……人間の癖にオレに対してものを言った度胸さとか、その辺だ!」
「あらそう?」
「……自分の娘の前で何言わせてんだよお前」
アブラム様は不思議と嬉しそうに見えた。
ほ、本気で好きだったのですか……?
「……でも、それもすぐに終わった」
「……付き合って次の日、迎えが来てしまった」
「……それで、私は気づいたの、『自分には婚約者がいる』って」
「……我に返ったこいつはすぐに『別れましょう』とかほざきやがった、意味が分からねぇよ」
「……」
え? 気まずい雰囲気に戻ってしまったんですけど……?
「でも私はアブラムに誓った、『もう一度この里に来る、だから森の前で待ってて』って」
「……だが、こいつは来なかった」
「……」
お母様は悲しそうな目でアブラム様を見た後……涙を浮かべた!?
お、お母様が……泣いていらっしゃる!?




