第五十八話
「……」
「……」
「あの……」
気まずい、凄く気まずい。
今、どういう状況なのかと言うと、庭のコテージで私とお母様とアブラム様の三人で、「お茶会」を開いているのですが……お二人とも、何も話さない……。
お母様が「お客様が来たのだが、その方はとても恥ずかしがり屋なので、お茶をコテージに置いて、使用人はコテージに近づかないように」と仰ったので、使用人皆様はアブラム様の姿を見ていない……筈です。
……先ほど、お母様はとても嬉しそうに見えたのですが……アブラム様とは一体どういう関係なのでしょうか?
「あの……お母様?」
「なんですか?」
「質問してもよろしいですか?」
「……」
お母様は変わらずお茶を飲んでいる。
アブラム様は先ほどからお茶に手を付けず……下を向いている。
「あの……アブラム様と、お母様は、どういう関係なのですか……?」
私は率直に質問してみた。
アブラム様の言葉には結構引っかかることがあった。
『なぜだ……なぜ来なかった……』
『約束したのに……オヒュカス……オヒュカス……』
何だったのでしょう? あの言葉は……。
すると、先ほどまで下を向いていたアブラム様が……顔を上げた。
……え? アブラム様……恥ずかしがってます?
「この女は……オレの『元カノ』だ」
「はぁ……元カノ……はい!?」
も、元カノ!? ということは……元交際相手ということですか!?
というかお母様……女性と交際してたんですか!?
ちょっと待ってくださいよ! 頭が追い付かないんですけど!?
「アブラム……もうちょっとオブラートに言ってよ……」
「それ以外言い方があるか?」
「……もう」
お、お母様! 何顔を赤くしてるんですか!
れ、冷静になりましょう……深呼吸……深呼吸……。
「リブラ、動揺するのも分かります、大体アブラムはいっつも……」
「お前の説教はもう聞き飽きた、娘の気持ちにもなったらどうだ?」
「なに? 人の家庭に対して口出しするの?」
「別に言う権利はある、人間社会には言論の自由があるのではないかな?」
「だったら私にも何かものを言う権利がありますけど?」
ちょ、ちょっと! 喧嘩しないでくださいよ!
でもなんでしょう……お母様、いつもより口調が豪快なように見えます……。
「ふ、ふふふ……」
「なにがおかしい?」
「いや、アブラムも変わらないなって」
「……そうかよ」
「あれ? 照れてる?」
「照れてない」
「顔真っ赤じゃない!」
「……うるさい」
……なんかいきなり仲直りしましたね。
なんでしょう……話し方だけを見れば年の近いお友達のように見えますが……。
アブラム様は恥ずかしいのか、ずっと顔が真っ赤だった。
「それで……差し支えなければ、別れた理由を教えていただけませんか……?」
私がそう言うと、2人は顔を合わせ、お互いにそっぽを向いた。
……やっぱりそういう事を聞くのはデリカシーが無かったでしょうか?




