第五十七話
「お前の……母親?」
「あ、あの……アブラム様?」
い、一体どうされたのでしょう……?
「……オヒュカス」
「……」
どうしたのでしょう……なんだか様子が……。
するとアブラム様はいきなり咆哮を上げて……私を押し倒した。
「あ、アブラム様!?」
「はぁはぁ……」
アブラム様は頭を抱え……私の胸のあたりに頭を置いた。
「なぜだ……なぜ来なかった……」
「……アブラム様?」
来なかった……? 一体何を言っているのでしょうか?
「約束したのに……オヒュカス……オヒュカス……」
「……」
アブラム様はお母様の名前を連呼している。
私はどうすればいいのか分からず、アブラム様の頭を撫でた。
カグラ様も、私が泣いていた時、こうしてくれたから、効果があると思ったからだ。
……そういえばアブラム様は、私を見てこう仰っていた。
『……やっぱり、お前の目はあの人間に似ている』
あの人間とは……お母様の事?
すると、アブラム様の咆哮を聞いたのか、廊下から足音が聞こえ、私の部屋の扉の前で止まった。
『リブラ! 何かあったのですか!?』
その声は……お母様だった。
すると、アブラム様は顔を上げた……その顔は、怒っているようにも見えたが、悲しい目をしていた。
「……オヒュカス!」
アブラム様は羽を広げ、私の肩を思いっきり掴んだ。
その力はとても強く、私の肩が握りつぶされそうなくらい強かった。
い、いけない! このままお母様が部屋に入ったら……。
『その声……アブラム!? アブラムなの!?』
お母様は驚いている様子だった。
『みなさん、ここは私に任せてください』
『で、ですが奥様……』
『いいから! 向こうで待機しててください!』
『は、はい!』
扉の向こうからスピカの声が聞こえる。
恐らくお母様は使用人の皆様も連れてきたんだろう。
使用人の皆様の足音が遠のき、部屋の扉が開いた。
扉から出てきたお母様は……。
「アブラム!」
とても嬉しそうな……悲しそうな……そんな顔をしていた。
お母様は、こちらに駆け込み、アブラム様を抱きしめた。
「久しぶり! アブラム!」
「……オヒュ……カス……」
アブラム様は私を掴んでいた手を放した。
お母様はアブラム様を力強く抱きしめている。
「ごめんね……今まで会いに行けなくて……」
「……」
アブラム様は、動揺しているようだった。
い、一体何がどうなっているのでしょう?
私は倒れた状態で、そう考えた。




