第五十五話
食事を終えてすぐ、お母様に「明日の夜会の準備をしなさい」と言われたので、部屋に戻ることにした。
さぁて、まずは衣装合わせと、ダンスの練習と、後は……
そんな事を考えながら自分の部屋のドアを開けた。
中はいつも通りの風景……と思われたが。
「うわぁ!?」
いつもと違う光景で、私は思わず大声を上げてしまった。
……幸い、近くに使用人がいなかった。
「な、なぜ貴方が……ふごっ!?」
口を塞がれ、扉を閉められ、鍵を掛けられた。
「んんん!?」
私は口を抑え付けられ、ベッドに押し倒された。
ベッドを押し倒した人物、そして今、その人物は私の上に乗っかっている。
その人物は……。
「な、何をするんですか! アブラム様!」
「お前がうるさいからだ」
……アブラム様だった。
◇ ~カグラ視点~
「……と、いうわけです」
「……ふざけるな!!」
ベガの言ったことはかなり衝撃だった。
長老の1人がブチギレて立ち上がった……私も驚いたけど……。
「我々は互いに干渉しないことで秩序を守ってきたのに、その行動は貴様らによる宣戦布告ととらえて良いのか!?」
「そ、そんな……滅相もございません……」
「だったら何だというのだ!」
「ひ、ひぃぃ……」
あぁ……そういえばベガって凄い臆病だったね……。
成長しても、そこんところは変わんないか……。
「落ち着きなさい! ベガに八つ当たりしても何にもなりません!」
ママは怒りで落ち着かなくなっている長老と鎮めさせた。
ママはこういう時も冷静だなぁ……。
「それで、ベガ。今一度聞きます、『それ』はいつ行われる予定ですか?」
「あ、明日の……昼と聞いています」
「明日の昼!?」
「早すぎる!」
「それでは対策しようがないではないか!」
ベガの言ったことに、私たちは困惑した。
あ、明日!? 早くない!? 長老の誰かが言ってるけど、対策しようがないじゃん!
「わかりました、私達でも何とかできないか模索します。ベガもオヒュカスと協力して対策を考えてください」
「はい、かしこまりました……」
……すると、さっきブチギレてた長老が立ち上がって、ベガの首を掴んだ。
ちょ、ちょっと!
「落ち着きなさい!」
ママは落ち着くよう言うも、長老は落ち着かない。
落ち着かないのは分かるけど、手を出すのはまずいって!
「この猿が……やっぱり貴様らはあの時全員殺処分にするべきだった!」
「も、申し訳ございません……」
「それで謝っているつもりか……? 貴様……ふざけているのか!!」
「やめなさい!!」
ママが怒号を上げると、使用人が長老を抑え込んだ。
はぁ……ようやっと止まった……
「今すぐ締め出しなさい」
「かしこまりました」
「おい! 放せ! 今すぐそいつの血液を全て吸ってやる! そんでもって人間どもを皆殺しにしてやるぞ! 放せよ!」
長老は部屋から締め出された。
多分あまりのことで訳が分からなくなってるんだと思う。
「申し訳ございません、ベガ」
「あ、謝らないでください、これも私が頼りないばかりに……」
「いいのです……今はお互い考えましょう。……森の外までお送りします、コキク」
「はい」
ベガはコキクに誘導され、部屋を後にした。
「しかし……これは本当に大変な状況です。早く何とかしなければ……」
……うん、ママの言っていることはもっともだ。
何とかしなくちゃ……
っていうか、こんな時にアブラムはどこ行ってるの!?




