第五十三話
◇~カグラ視点~
「リブラ……」
私はリブラの事で頭がいっぱいだった。
今朝お別れして気持ちを切り替えようとしても、すぐにリブラの事を考えてしまう。
リブラの声が恋しい、リブラの笑顔が恋しい、リブラの唇が恋しい。
リブラもそう思っているのかな?
どうだろう? わからない。
数か月……下手をすれば、数週間で、私の事を忘れてしまうのだろうか?
いやいや! そんなわけない! アブラムだって、忘れるわけがないみたいなこと言ってたし……
あぁもう! リブラ! 今すぐ君に会いたいよ!
薬飲んで会いに行っちゃおうかな……でもアポなしで行ったら迷惑かけちゃうだろうし……
どうしよう……リブラが恋しくてしょうがない! これじゃあこの後の仕事に支障が……
「カグラ!」
「え、はい! 何!?」
ママの声が聞こえ、私は我に返った。
「どうしたんですか? 食事が進んでいないようですが……」
「あ、ちょっと……考え事してて……」
「……」
ママは私の事を心配そうに見つめている。
さすがにリブラの事で頭がいっぱいなことは丸わかりっぽい……?
まぁ無理もないか……。
「……今日はもう狩りに行くのはやめて、休んでなさい」
「え!? いやいや、大丈夫だよ!」
「ナミスの言う通りだ、今の状態じゃ、仕事に支障が出るよ」
「パパ……」
確かに言う通りかも、狩りの時もアブラムに心配されちゃったし……
「じゃ、じゃあ、そうする……ごちそうさま」
私は食事をそのままにし、食堂を後にした。
リブラ……会いたいな。
夜寝しようにも、リブラの事を考えていたら眠れないかも……。
あぁもう!
◇ ~リブラ視点~
「お嬢様、お食事の用意が出来ました」
「わかったわ、今すぐ行く」
スピカが夕食の知らせをしてきた。
私はスピカに連れられ、食堂へと向かう。
食堂の扉が開けられるとお父様とお母様が……いない?
「あの……私だけですか?」
私は困惑して、スピカに聞いてしまった。
今まで2人が忙しい時も、食事の時は一緒だった。
それが今回は……2人ともいない。
こんなことは初めてだった。
レオは忙しいのでいない時が多かったのだが……。
「はい、王城からの知らせを受け取ったのち、出掛けてくると言ってお二人とも出発いたしました」
「そ、そう……」
王城から……? となると、かなり重要な事なのでしょう。
私は納得して、席に着いた。
『お腹空いたなぁ~楽しみだなぁ~』
そんな声が、隣から聞こえた気がした。
でも、隣には誰もいない。
これほどまで寂しい食事があっただろうか……?
カグラ様がいたら……。
……私ったらまたカグラ様の事を!
しっかりしなさい! 私!
◇~カグラ視点~
「リブラ……」
気が付いたら、私は何も身に着けていない状態で、自分の腕を噛みつきながら、ベッドに横たわっていた。
どうやらリブラの事を考えすぎたらしい……服着なきゃ。
服を着替えていると、何やら廊下が騒がしいような気がした。
普段そんなことが無いので、私は思わず扉を開けた。
1人のメイドが焦った表情でママのいる部屋へ向かっていた。
「ねぇ! 何かあったの!?」
私は扉を少し開け、メイドに声を掛けた。
「あ! 姫様! 大変です! 実は……」
「……なんだって!? それ本当!?」
私はメイドの口から出た言葉に驚愕した。




