第五十話
「あの白い髪に白い肌……目は青かったが、あれは間違いない……吸血鬼です」
「……え?」
レオの口から、「吸血鬼」という言葉が出た。
あまりの衝撃に、私は驚いてしまった。
「驚かないでください、事情はお父様からすべて聞きました」
「あ、そ、そうですか……」
なんだ……既に知っていたのですね。
「つ、つまり、里の事も……?」
「えぇ、迷宮の森の奥深くに、吸血鬼の里があることも聞いています、盟主様の名前はナミス……ですよね?」
「え、えぇ……」
レオは里の事もお父様から聞かされていたらしい。
私のいない間に全てを話したのでしょうか……?
「さて、ここからが本題です、姉さん」
「え?」
今までのは全て前座なんですか!?
ほ、本題とは一体……。
「姉さん、吸血鬼について、どう思いますか?」
「どう思う……?」
レオの表情はとても険しかった。
レオは悩んでいるとき、いつもそんな表情をしていた。
最後にその表情を見たのは……5年前でしょうか?
確か、屋敷の壺を割って、言うか言わないかで迷っていて……と、それは関係ないですね。
「僕は思うんです、吸血鬼は危険な存在だとね、血を吸うということは、僕らだって捕食対象になる」
「きゅ、吸血鬼は危険じゃありません!!」
私は思わず立ち上がって、大声を上げてしまった。
「ね、姉さん……?」
「……すみません」
私は冷静になって、席に着いた。
「……お父様に言われました、『彼らは人間を襲わない、平穏な生活を望んでいる』と、ですが、僕はどうしても、彼らを疑ってしまう」
「……」
レオはかなり悩んでいるようだった。
……冷静に考えると、いきなり吸血鬼の存在を言われたら、そうなるのも無理はない。
私は一晩だけだが、彼らと一緒だったから、先ほどのように怒鳴ってしまったのかもしれない。
「だから姉さん、吸血鬼の事を教えてほしい、彼らは僕らの事をどう思っているの? 彼らはどういう生活をしているの? 吸血鬼の中にも、僕みたいに疑っている人はいるの?」
「……」
私は話すのを戸惑ってしまった。
レオは真剣に私を見つめている。
「その……レオ」
どうしてでしょう、喉の出口まで来ている言葉が出ない。
何を躊躇しているのでしょう、私は……。
「……すみません、姉さん」
「……レオ?」
レオは頭を下げた。
家族に頭を下げられると、他人にされるよりも困惑してしまう。
「ちょっとレオ! なんで謝るんですか!」
私もカグラ様の前では謝ることが多かったのですが……やはり家族は似るものなのでしょうか?
「まだ帰って間もないのに難解な質問をしてしまって……明日また出直しましょう!」
レオは立ち上がり、コテージから出ようとしていた。
私は出ようとするレオの肩を掴んだ。




