第四十八話
『リブラ!』
カグラ様の美しい声が聞こえる。
私はその声がする方向へと走った。
『リブラ! 早くしないと置いていくよ!』
カグラ様が走り始める、
私はそれを追いかけた。
カグラ様は相変わらず足が速い、私は追いつけなかった。
「待ってください!」と私は叫んだ。
でも、その声がカグラ様には届かなかったのか、どんどん遠くへ行ってしまう。
走っていくうちに私は何かに躓いた。
カグラ様は……もう目の前にはいなかった。
悲しかった、私は泣いた、たくさん泣いた。
気が付くと、私の足元が湖になっていた。
私は泳ごうとするも、流れが速く、気が付くと、滝のすぐそばまで来ていた。
私は流されないように逆走した。
しかし流れには敵わず、どんどん滝へと近づいてしまう。
私は助けを求めた、でももうカグラ様はいない。
助けてくれる人は……もういない。
私は力尽きて……滝に落ちた。
もう死ぬと分かっているけれども、カグラ様に会えないのなら……本望だった。
そろそろ私は水に叩きつけられて死ぬ……そう思った時だった。
私は風を感じた、上からではなく、横からの風。
目を開けると、真上には……。
「心配したよ、リブラ」
カグラ様だった。
美しい髪に、美しい肌、吸い込まれそうな赤い瞳。
まさにカグラ様だった。
私はその姿に安心したのか……再び目を閉じた……。
◇
「……さま」
目を開けると、人の顔が見えた。
あれはまさか……
「カグラ……様?」
私はそう呟いた。
「お嬢様、お休みのところ、申し訳ございません」
「え!? ス、スピカ!?」
目を開けると、メイドのスピカが、ベッドの横から声を掛けていた。
先ほどのは……夢?
「申し訳ございません、出直します」
「あ、いえ! 大丈夫です!」
スピカが気を使ってくれたのか、部屋を出ようとしていた。
私はそれを呼び止めた。
危ない危ない……もしかしたら大事な要件かもしれませんからね。
「で、何の用ですか?」
「はい、先ほど、お坊ちゃまより、お嬢様とお話がしたいとの伝言をお預かりしました」
「レオが……?」
もしかしたら、レオは私の事を心配して、顔を見たくなったとか……そういう事ですかね?
確かに心配を掛けてしまいましたし……お話をする機会は最近ほとんどなかったので、いいでしょう!
「わかりました、すぐ向かうとレオに伝えてください」
「かしこまりました」
スピカはそう言って、部屋を出た。
さて、私は姉らしく服装を整えて、行きましょう!
これもカグラ様の為に!




