第四十七話
「カグラ様……」
やはりもう二度と会えないとなると、悲しくなってしまう。
もしかしたら、これは夢で、起きたらカグラ様が隣にいらっしゃるのかもしれないとも考えた。
目が覚めたら、あの美しい街並みに、美しい景色、そして美しいカグラ様。
それが嫌というほど見ることができる。
……だが、それは妄想に過ぎない、そんなことは分かっている。
でももう、そんなことは言ってられない。
私はコーヴァス伯爵家の令嬢、リブラ! 早く立ち直って、新たな婚約者を見つけなければ!
カグラ様! 見ててください! 私は貴方に認められるような女になって見せますわ!
◇
「あら、アトラス様」
「突然申し訳ない、『フェリス殿下』」
アトラスはとある屋敷に到着していた。
それも裏口から……所謂お忍びでの訪問だった。
この屋敷はアントリア子爵家の屋敷、アトラスの前に現れた女性は、そこの令嬢の「フェリス・アントリア」だった。
「来てくれて嬉しいですわ」
「俺も、君に会えてとても嬉しいよ」
2人はお互いに近づき……唇を合わせた。
「すまないが、今日は夕方には帰らせてもらう……いいかい?」
「えぇ、構いませんわ、アトラス様……」
王族の人間ならば、複数の人間と関係を持つのは悪ではない。
だが彼は、複数の女性に対し、すぐに終わるかも分からない、脆い関係を築いていた。
「今日はお父様もお母様もいないので……いいですよ」
「いいのかい? 嬉しいねぇ」
2人は裏口から入り、屋敷の中へと消えていった。
しかし、2人は気づいていなかった、一連の流れも見ていた人物がいたことに……。
「アトラス様……そんな……」




