第五話
「姫様―!」
「ひ、姫!?」
森の奥から、「姫」を呼ぶ声が聞こえる。
姫って誰ですか!? まさか……。
そう考えていると、この少女と似た肌と瞳がこちらに近づいてくるのが分かった。
何かで顔を覆っているのか、それしかわからなかったが、少なくとも敵意はないように見えた。
その瞳がこちらの目の前で止まり……跪いた。
「姫様! ご無事ですか!? その方は!?」
「あぁ、どうやら森に迷い込んだみたい」
どうやら、この少女は、この人の部下(?)らしい。
というか姫!? この少女は一体……。
「この森にですか!? というかそいつ、人間ではありませんか!?」
「だからなに? 人間ではまずいのか?」
「い、いえ……」
さっきから私は、この人たちに『人間』と呼ばれている、そして先ほど私の傷口を治すと言って起こした一連の動き……。
最初に遭遇した時はほんの予想でしかなかったが、彼女らはやはり……。
「我ら『吸血鬼』、人間とは距離を置くというのが暗黙の了解の筈ではありませんか! 姫様!」
……吸血鬼だった。
「だが、森に迷い込んだ以上、1人にするわけにはいかない、このまま『里』まで運ぶよ」
さ、里!? そんな場所、この領地の中にあるのですか!?
「で、ですが……」
「私の言うことが聞けないの?」
「……か、かしこまりました」
どうやら、話し合いの結果、その『里』というところに、私を連れていくことになったらしい。
「……と、いうことだ、いいかな?」
姫様(?)は私の方を振り向いてそう言った。
「は、はい……というか、いい加減、放していただけますか?」
「あ、ごめん」
少女が私の体から離れた。
……吸血鬼って体温が無いんじゃないんですか!? すっごく暖かかったんですが!?