第四十三話
「私も……リブラの事、好きなんだ」
「え……?」
私はカグラ様の告白に、思わず黙ってしまった。
「おかしいよね? 会って間もないのに、勘違いかもしれないのにね」
「い、いえ! そんなこと!」
「……あはは」
「ふふふ……」
私たちは、お互いに笑いあった。
理由は分からない、でも、今はそんな感情になった。
「あ、あの……」
「なに?」
笑いあったところで、私は質問した。
「カグラ様は、その……私のどこが好きになったのですか?」
「その質問、まだリブラの答えを聞いてないんだけど?」
「わ、私の!? そ、そうでしたね……」
「うーん……」
カグラ様は再び私を抱きしめ、見も下で囁いた。
「私はね……リブラのそういうそそっかしいところとか、相手の事を思いやる心とか、この美しい髪とか、そそられる首筋とかが……好きかな」
「え、ちょっと……」
カグラ様が甘くそう仰るので、私は思わず突き放した。
「え? どうしたの?」
「……」
私は今、カグラ様と目線を合わせていない。
合わせられないと言った方が正しいのかもしれませんが……。
「わ、私は……カグラ様の……そういう……唐突に誘惑してくるところが……嫌いです」
「え? 私が嫌いなの?」
「え、あ、その、そういう意味じゃなくて……」
「じゃあ何?」
「えっと……」
ど、どうしましょう……何と答えれば……。
「ふふ」
「え?」
カグラ様は再び私を抱きしめた。
「ごめん」
「え?」
カグラ様は顔を近づけてそう言った。
「じゃあ、次会った時は……そういう事、やめるね」
「や、やめなくていいです!」
「そういうの嫌いなんじゃないの?」
「そ、それは……言葉の綾です……」
「……そっか」
「……」
カグラ様は顔を近づけたまま、私と目を合わせている。
私は緊張して、心臓が高鳴り続けている。
でも、嫌ではなかった。
だって、カグラ様だから。
「ねぇ」
「な、なんでしょう?」
私はカグラ様の声に素っ気ない声で返事をしてしまった。
しかしカグラ様は、笑みを崩さないでいた。
「そろそろ……私のどこが好きなのか……言って?」
「え……?」
「私が答えたのに、リブラが答えないって不公平じゃない?」
「それは……そうですけど……」
カグラ様は私の答えに期待しているようだった。
確かにカグラ様は私の……す、好きなところを言ってくださいましたが……
私も同じことを言うのは……恥ずかしいです……。
「ほら」
「……」
「言って?」
カグラ様は急かすようにそう言う
全く! そそっかしいにはどっちですか!
「言わないと……」
「え?」
カグラ様は私の首筋に近づいた。
「リブラの血……吸っちゃおうかな?」
「え……?」
カグラ様は牙を立て、首に近づこうとしている。
「ほら、言わないと……吸っちゃうよ?」
「わ、笑えない冗談はやめてください……」
「冗談だと思ってるのかな?」
「……」
カグラ様の目は真剣だった。
本気で私の血を吸うつもりだ。
でも……。
「カグラ様なら……構いません……」
「……本当に?」
「……はい」
別にカグラ様なら吸ってもらっても構わない。
他の吸血鬼の方なら嫌ですが……カグラ様だから。
「い、痛くしないでくださいね……」
「……」
カグラ様は、私の首筋に牙を触れさせた……。




