第三十九話
「どうでしたか? 昨夜は」
「あ、えっと……とても楽しかったです! 王国にはあのような催しは無かったものですから、とても新鮮でした!」
「そうですか、それならば良かったです」
盟主様が昨夜の事を聞いてきた。
昨夜は本当に内容が多すぎて、一言ではまとめられなかった。
「ママ! リブラったら凄いんだよ! ダンスが凄く上手くて、踊っててものすごく楽しかったんだ!」
ちょ、ちょっと! 今はそのことを思い出させないでください!
恥ずかしいです……。
「うふふ、カグラがそこまで言うということは、相当踊りがお上手なのですね」
「い、いえ、それほどでも……」
盟主様が笑顔で私を褒める。
踊りを褒められたことは無かったので、緊張しますわ……。
「あはは、謙遜しなくていいですよ、カグラは昔から踊るのがとても上手なんだ、そのカグラが褒めるということは、相当な腕前だよ」
ルーセット様も私を褒めてくださる……。
そういえば、踊る前、カグラ様はこんなことを仰っていましたね……。
『ああ、まだそう言えば見つけてないなぁ』
踊る相手を見つけていなかったということは、息の合う相手がいなかったという事でしょうか?
でも、それなら初対面の私と何故あんなに完ぺきな踊りを……?
となると、カグラ様は相当な腕前だったと言えますが……カグラ様も盟主様もルーセット様も、私の踊りを褒めてくださっている……。
そ、そこまで褒めて頂けるということは、自信を持っていいのでしょうか?
そんな会話を交えつつ、私たちは、食事を楽しんだ。
◇
「いやー美味しかったね! ごちそうさま!」
カグラ様はそう言って、手を合わせた。
盟主様とルーセット様もそのようにしていた。
吸血鬼の皆様の習慣なのでしょうか……? 私も手を合わせた。
そうしている間に、使用人の皆様が食器を片付けてくれた。
皆さん、とても手際が良いですね……。
使用人の皆様が片づけをしている中、燕尾服を着た女性が入室してきた。
その人が通り過ぎると、使用人の皆様は作業をいったん止め、お辞儀をした……アブラム様はなんとなく嫌そうに見えましたが……。
燕尾服を着た女性が、盟主様に耳打ちをして、何かを伝えている……一体なんでしょうか?
時折私を見ていますが……。
「……リブラ様、貴方をお送りする準備が整いました、準備が出来たら私の元へお願いします」
「……は、はい!」
お送りする、すなわち里を離れなければならない。
ほんの数十時間しかいなかったのに、とても寂しく感じる。
「……さ、行こうか、リブラ」
「え、ちょっと、カグラ様!?」
カグラ様は私の手を掴み、歩き始めた。
その顔は、どこか寂しいような、悲しいような……そんな感じがした。




