第三十六話
すると、部屋のドアを叩く音が聞こえる。
私は照れ隠しをしながら、ドアを開けた。
ドアを開けると、アブラム様がいた。
「姫様、お客様。食事のご用意が出来ました」
アブラム様は、頭を軽く上げながらそう言った。
今はアブラム様に救われた気がして、つい感謝のまなざしを送ってしまった。
するとアブラム様は、「こっちを見るな」と言いたげな表情で、睨み返した。
「お! 朝食だね! リブラ! 早く食べようよ! 私ちょうどお腹空いてたんだ!」
カグラ様はまるで少年のような口ぶりで言った。
「さ、リブラ! 早く行こう!」
「ちょ、ちょっとカグラ様ぁ~」
例によって、私はカグラ様に引っ張られた。
い、今手を掴まれるのは、は、恥ずかしいですぅ~!
◇
「さ、着いたよ! 食堂!」
「はぁはぁ……」
カグラ様ったら……もう私……緊張で……。
「あ、ごめん! また私ったらリブラを引っ搔き回して……」
「だ、大丈夫です! えぇ!」
私は平然を装って返事をした。
恐らく顔は真っ赤であっただろう。
後ろから着いてきたアブラム様が扉を開け、食堂の全貌が露になる。
お屋敷の食堂よりも一回り大きいテーブルに椅子。
周りには使用人の方が食事を人数分並べ始めていた。
一番前の真ん中の席には、盟主様が座っていた、そしてその横には……。
「初めまして、貴方がリブラ様ですか?」
「は、はい!」
盟主様の横にいるグレーの服をお召しの男性が、席を立ちあがり、私に声を掛けてきた。
まさかこの方は……。
「あ、そういえば会うの初めてだよね! 私のパパだよ!」
「お、お父様!? カグラ様の!?」
確かに、髪は黒だが、どこかしらカグラ様と似ている気がする……。
「初めまして、『ルーセット』と申します、昨夜は仕事をしていたもので、お会いできませんでしたね、申し訳ございません」
カグラ様のお父様……ルーセット様は頭を下げた。
な、なんで頭を下げるのですか!
と、とにかく私も自己紹介を……。
「コ、コーヴァス伯爵家のリブラ・コーヴァスと申します! よろしくお願いします!」
「おぉ、確かにその姿、オヒュカスと瓜二つだね」
私は頭を下げ、緊張をごまかした。
盟主様も仰っていましたが、お母様と似ていると言われると……恥ずかしいです……。
「姫様、こちらへ」
アブラム様の声が聞こえ、私は頭を上げた。




